漫画全話レビュー「めぞん一刻 第108話「二人の旅立ち」」 5/5 (2)

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掲載情報

掲載雑誌
  • ビックコミックスピリッツ 1985年8月15日号

 

アニメでは

 

時系列とでき事
  • 1985年7月27日 音無響子、金沢へ傷心旅行に行く

 

この頃のでき事
  • 8月2日 - デルタ航空191便墜落事故。ダラス・フォートワース国際空港付近でロッキード L-1011 トライスターが墜落。乗客乗員163人のうち134人と、地上にいて事故に巻き込まれた1人の計135人が死亡。
  • 8月7日 - 初の日本人宇宙飛行士として土井隆雄、内藤千秋(現姓:向井)、毛利衛の3人が決定。
  • 8月12日 - グリコ・森永事件で犯行グループから「終結宣言」が送付され、以降動きが途絶える。
  • 8月12日 - 日本航空123便が群馬県多野郡上野村の高天原山(御巣鷹の尾根)に墜落、歌手の坂本九を含む520名の死者を出すも乗客4人が奇跡的に生存。
  • 8月13日 - 三光汽船が会社更生法を申請し倒産。戦後最大規模の倒産事案。
  • 8月15日 - 南京大虐殺紀念館、日中戦争終結40周年の一環としてオープン。
  • 8月15日 - 中曽根康弘首相が靖国神社公式参拝。
  • 8月21日 - 第67回全国高校野球選手権大会は大阪・PL学園高校が2年ぶり3度目の優勝。決勝戦(対山口・宇部商業高校戦)で清原和博が1大会新記録となる5本塁打を放つなど、桑田真澄との「KKコンビ」としてのラスト甲子園で有終の美を飾る(植草貞夫の項も参照)。
  • 8月22日 - ブリティッシュ・エアツアーズ28M便火災事故
  • 8月24日 - ユニバーシアード神戸大会、108カ国3949人が参加し開催。
  • 8月25日 - 韓国・北朝鮮、第9回南北赤十字会談(〜28日、平壌)。
  • 8月26日 - トヨタ自動車が「カリーナED」/「コロナクーペ」を発売。

 

あらすじ

五代君に諦められた形の響子さんは、音無家から旅行券を貰い、1人傷心旅行に出掛けます。一方五代君は、坂本に響子さんの涙を説明したところ、惚れられているのではないかとの一般論を言われ、モヤモヤが吹き飛び、響子さんに確認しにに行くのですが…。

 

みどころ

  • 響子さんと五代君のすれ違い

 

はじめに

今回は名エピソードである金沢傷心旅行の始まりの回です。五代君の響子さんに対する決別宣言にスポットが当てられていますが、三鷹さんが響子さんに抱き付いた件でも進展があり、謝罪と説明の手紙が来ていました。このように、全ての事柄を並列であれきちんとフォローするのはモヤモヤが無くなるので素晴らしいです。酷い漫画だと「あれはどうなったの?」とほったらかしにしてそのまま終わるなんてことをやりますからね。代表的な例だとGANTZの吸血鬼の件なんかですね。

 

長年連載している漫画の場合、事細かに全てを計算通りに描くのはほぼ不可能で、連載しながら話を考えていくのが一般的ですが、この過程できちんと整合性を取るのかどうかで、その漫画家の漫画に対するスタンス、丁寧さがわかる気がします。勿論、高橋留美子さんは、このように細かいでき事も忘れず丁寧に拾っていくタイプです。中には自分で描いたことも忘れる漫画家もいますからね…。

 

三鷹さんの謝罪

元々この五代君の決別宣言騒動の発端は、三鷹さんが響子さんに抱き付いたことなのですが、今回冒頭でその三鷹さんから謝罪と説明の手紙が届いていました。電話では言い辛かったのでしょう。説明すると長くなりますしね。また、ここも今なら携帯のメールですよね。別にメールでもはストーリー上問題無いのですが、メールでは雰囲気が台無しと言うか、真剣さが伝わらないと言うか、味気無いと言うか…。しかし逆に今だと手紙こそ不自然なのでしょうか。

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三鷹さんはまたしても暫く蚊帳の外になるのですが、犬に人生を左右されまくっているので、このままではいけないと立ち上がり、犬嫌いを克服しに行く描写がされていました。…が、犬嫌いを克服すると、三鷹さんが望まない方向にも人生を大きく変えてしまうのですが…。もし犬嫌いのままなら、明日菜さんとの縁談には厳然とした障害があるわけで、くっつくことはできないのですが、犬嫌いを克服してしまうことにより、皮肉にも明日菜さんとの障害が無くなってしまいます。三鷹さんはこの時点では全く気付いていませんが…。

 

両者に諦められ1人になったと思う響子さん

三鷹さんの謝罪の手紙にプロポーズについての言及が無く、五代君にも決別宣言されてしまったことにより、両者に諦められ、1人になってしまったのかなと落ち込む響子さん。現在もう108話なのですが、結局響子さんに言い寄る男性は5年で五代君と三鷹さんしか出てこなかったみたいです。下手に登場人物が多く、関係性がごちゃごちゃするより、スッキリわかりやすくて良いですけどね。

 

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響子さんは一言五代君に無理矢理抱き付かれたんですと言えば済む気がするのですが、今回は三鷹さんのマンションの部屋でのでき事ですから、五代君もさすがに信じ切れない状況だったのかも知れません。私も五代君の立場になった場合、友達以上恋人未満(古い言い方ですが)の女性が、「男性の部屋で」抱き合っている(ように見えた)ところを見て、あれは誤解ですと言われて信じられるかどうか…。

 

この誤解は、今回のエピソードで和解して元の鞘に収まるのですが、その時も響子さんが事情を説明して五代君が納得との流れでは無く、なんとなく緩く「あれはあれで響子さんの意思では無かったのだろうし、もうどうでもいいか…」との決着でした。結局五代君が響子さんを信じるか信じないか、許すか許さないかのみが和解の要素なので、五代君が「そうですか」と引けばそれで解決の話なのです。この誤解はいずれもっと仲が良くなり、信用来るようになったとき、改めてじっくり話せば良いわけですしね。

 

響子さん傷心旅行へ

たまたまタイミング良く音無家で旅行クーポン券を貰った響子さんは、気分転換に1人旅へ行くことにするのですが、一刻館住人に話したところ、勝手に計画を立て、そして付いてくる勢いでした。

 

ここは非常シリアスなエピソードで、ともすればシリアスな空気のまま話を通そうと思えばできるのですが、めぞん一刻はこのようにちょいちょい笑いを入れてくるのでバランスが非常に良いのです。この一刻館住人が織りなすコメディこそがめぞん一刻の肝でもあります。これが無くなってしまうのはさすがに寂しいですし、それではめぞん一刻無くなってしまうのだと思います。

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坂本への相談

響子さんの涙の意味に悩む五代君は、またしても坂本に頼り、事情を説明して相談するのですが、坂本は「一般論」として、それは五代君が惚れられているとアドバイス。五代君も薄々そうは思っていたものの、坂本に言われて背中を押され、その後の坂本の「果たして(五代君と響子さんの特殊な関係に)一般論が通用するかどーか。」との言葉も聞かずに、響子さんに事情を聞きに店を飛び出していきました。

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しかしこの坂本の一言で五代君の人生が変わりましたね。これが無ければ五代君はまだウジウジして、響子さんの傷心旅行を追い掛けることも無く、そして和解も無かったのでしょう。更に坂本は五代君と響子さんの特殊な関係もわかっていると。こういう友達って良いですね。

 

追い掛ける五代君

既に傷心旅行に出掛けてしまい一刻館はもぬけの殻。しかし響子さんが扉に貼っていった旅行日程を見て、五代君は追い掛けます。

 

この旅行日程が扉に貼り付けてある必然性も納得できて、響子さんとしては表向き、何か一刻館にあった場合の緊急連絡先としてなのですが、その内心では五代君に追い掛けてきて欲しい現れかもとのちに語られます。この日程表を貼った説明はもの凄く納得しました。最近よく書いていますが、こういった小道具の意味や、登場人物の言動についてきちんと背景や思いが説明されフォローされるのが、めぞん一刻の世界観や登場人物にリアリティを持たせ、そして感情移入してしまう大きな要因だと思っています。

 

ここでもうひとつ偶然の面白さがあり、本来予定表に書いてあるスケジュールでは、とっくに響子さんは電車に乗って出発しており、五代君がだいぶ遅れて追い掛けるタイムスケジュールになっているはずなのですが、一刻館住人が駅まで付いてきてお酒を飲んでしまったことにより、響子さんのスケジュールは初っ端から大きくずれいました。結果的に五代君と同じ電車の同じ車両に乗ると言う滑稽さ。シリアスな話の中にも、クスッとする笑いを随所に入れてくるこのめぞん一刻独特のバランス感覚は本当に大好きです。

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また、ここで影響を与えたのも一の瀬さん、四谷さん、明美さんの一刻館住人でした。この一刻館住人の言動を細かく見ていると、事件の遠因となっていることが多く、八神が五代君に惚れた遠因も彼らでした。この一刻館住人が五代君を無理矢理宴会に引きずり込んでいなければ、八神は五代君に惚れることはありませんでした。実はめぞん一刻の物語がどうなるのかは、彼らの言動がほぼ全て絡んでいるんです。

 

 

総評

今回は響子さんが金沢へ傷心旅行へと行く回でした。

 

五代君は響子さんの涙に戸惑い、悩み、坂本に相談をして追い掛け、響子さんは予定通りの出発ができず、そして同じ車両の前後の席でお互い気付かず。傷心旅行エピソード初回から、今後めぞん一刻の特徴であるすれ違い劇がふんだんに起こるだろうなと予感させます。どれだけすれ違いが起こるのかワクワクです。

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ちなみに個人的な話ですが、金沢のビジネスホテルに仕事で1ヶ月間泊まったことがあります。その時からめぞん一刻は最も好きな漫画でアニメだったのですが、その頃は聖地巡礼なんて概念を知らず、せっかくのめぞん一刻金沢傷心旅行エピソードの聖地巡礼のチャンスを逃してしまい、あとから「ああそうだ!あの時チャンスだったんだ!」と後悔しました。あの時聖地巡礼という遊びがあることを知っていれば…。知り合いもおらず、仕事が終わった平日も、そして土日も基本ホテルに引き籠もり生活でした。いくらでも回れたはずなのに…。

 

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