漫画全話レビュー「めぞん一刻 第158話「約束」」

掲載情報

掲載雑誌
  • ビックコミックスピリッツ 1987年3月30日号

 

アニメでは

 

時系列と出来事

 

 

この頃の出来事
  • 3月2日 – キヤノンが「EOS650」を発売。同じ日には旭光学工業が「ペンタックスSFX」を発売。
  • 3月3日 – 日立製作所が全自動洗濯機「静御前」を発売。
  • 3月3日 – 武田薬品工業が「アリナミンV-DRINK」を発売。アリナミンシリーズでは初の栄養ドリンク。
  • 3月5日 – 岩手靖国訴訟で、盛岡地裁は首相の靖国公式参拝合憲判決。
  • 3月9日 – トヨタ自動車や東京電力などの出資で日本移動通信(IDO)設立(現在のKDDIの前身)。
  • 3月13日 – 中国残留孤児の定期訪日調査終了。
  • 3月14日 – 日本の南極商業捕鯨終了。
  • 3月17日 – 朝日麦酒が日本初の辛口ビール「アサヒスーパードライ」を発売。
  • 3月18日 – 神戸市営地下鉄西神・山手線の学園都市駅 – 西神中央駅間が開業し全通。
  • 3月18日 – 舞鶴若狭自動車道の丹南篠山口IC – 福知山IC間が開通(舞鶴若狭自動車道では最初の開通区間)。
  • 3月21日 – 中曽根内閣が佐藤内閣・吉田内閣に次ぐ戦後3位の長期政権へ。
  • 3月22日 – アップルコンピュータが「Macintosh II」と「Macintosh SE」を発表。
  • 3月23日 – 予讃線高松駅 – 坂出駅・多度津駅 – 観音寺駅間、土讃線多度津駅 – 琴平駅間が電化(四国では初の電化)。
  • 3月28日 – シャープがパーソナルワークステーション「X68000」を発売。
  • 3月30日 – 安田火災がゴッホの「ひまわり」を53億円で落札する。
  • 3月31日 – 三井物産マニラ支店長誘拐事件の被害者がフィリピン・ケソンで誘拐から137日ぶりに釈放される。
  • 3月31日 – 吉本興業の劇場・なんば花月(大阪市南区。現中央区)が閉館、4月から近隣に新築したなんばグランド花月にその役割を譲る。

 

あらすじ

娘の再婚に大反対のお父さんは、五代君の職場のしいの実保育園、そしてバイト先のキャバレーへ現れます。五代君へ直接結婚を許さんと伝えるも、先日からの風邪で倒れてしまいます。その後語られるお父さんの結婚反対の理由。そしてそれを知った五代君は決意を新たに響子さんにプロポーズをします。

 

 

みどころ

  • お父さんの再婚反対の理由
  • 五代君のプロポーズ
  • 五代君のプロポーズに対する響子さんの返答

 

はじめに

今回は涙無しには読めない話です。今までお父さんは娘の響子さんの再婚に頑なに、ともすれば自分勝手に、意地悪に反対しているように見えたのですが、そのお父さんの心中が語られます。そして五代君が遂にプロポーズです。この五代君のプロポーズの言葉も感動的なのですが、それに対する響子さんの返答もまた素晴らしく、これまでのめぞん一刻の物語を、そして響子さんの気持ちを端的に表しています。

 

お父さんの気持ち

はじめてめぞん一刻を読んだのは完結して暫くしたからで、私が中学後半か高校の頃だったと思うのですが、そんな子供の私でも、響子さんのお父さんの気持ちには涙が止まりませんでした。中高の頃なんてともすれば父親と一番ソリが合わない時期なんですけどね。そんな現実の自分なんてどこへやら、すっかりお父さんの気持ちに自分が入り込んでしまい、気付いたら泣いていました。前回まではまだコメディ要素があり、「まーたあのお父さんが反対に来たよ」的に読んでいたのですが、突然今回お父さんの本当の気持ち、響子さんを思う優しさと、自分がもっとなんとか出来たのではないかとの自責の念が一気に語られ、「こんなこと思ってたのかよ…」と…。

 

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この辺りのお父さんの気持ちは、おそらくやろうと思えば、まるまる1話使って出来ます。それくら前振りがありましたし、読者の大きな疑問でもありました。ところが物凄くコンパクトに、たったの1ページか2ページで、簡潔にわかりやすくお父さんの気持ちを教えてくれたので、泣くポイントがダラダラ続かず、短い部分に凝縮されていて瞬発力があるんです。

 

この描き方も上手くて、仏壇を前にうなだれる響子さんの悲しそうな姿を後ろからお父さんが見て、「こんな時、おとうさん、どうすればいいんだ。」「こんな思いをさせるくらいなら、もっともっともっともっと反対すべきだった。」と後悔している様子がまたもう…。これ、泣くなって方が無理でしょ…。

 

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ともかく、あれだけ響子さんの再婚に反対していた理由がこれでハッキリとわかりました。ただギャグとして再婚に賛成する母の律子さん、それに対する再婚に反対するお父さんなんて話ではなかったんです。今までずっと何があっても再婚に反対していたお父さんの理由がわかり、今までのお父さんの意地悪なような行動、反対と頑なに言っていたシーンが走馬燈のようによみがえってきます。このように登場人物の心の内を全て理解した上で、めぞん一刻を初めから読むと、また少し違った角度から楽しめます。

 

五代君のキャバレー最後

お父さんが五代君の結婚反対を直訴しに来たことで若干かすんでしまいましたが、この日は五代君のキャバレーバイト最後の日でした。

 

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最初は半分騙された形で嫌々やっていたのですが、いつの間にかなじみ、そして周りからも慕われていました。この辺りは五代君の人格のなせる業でしょう。正直、五代君は仕事が出来るタイプの人間ではないどころか、もっと言えば恐らくグズに分類される人間です。しかし、人から好かれるのは努力ではどうにも出来ない部分が多いと思うので、ここまで周りに慕われるなら、この先苦労しながらも幸せな人生送るんでしょうね。人を嫌う、嫌われるって意外とパワー使いますからね…。これは恐らく皆わかっていると思うのですが、それでも好き嫌いが出来てしまうのが人間で、この部分で気苦労しなくて良いというのは、生きる上で凄くアドバンテージじゃないかなと思います。

 

遂にプロポーズ

そしてなんと言っても今回の肝は五代君のプロポーズでしょう。ある意味ここがゴールです。結婚式はあくまで式ですからね。五代君と響子さんの結婚が決まったら、それはもうめぞん一刻のゴールとも言えます。

 

五代裕作

「おとうさん…心配なんですね。

おとうさんにとっては、響子さん、いつまでも小さな女の子なんですよね。

…だけどおれにとっては…たったひとりの女の人…です…結婚してください…

泣かせるようなことは絶対しません。残りの人生をおれに…ください」

 

音無響子

「ひとつだけ、約束…守って…」

 

五代裕作

「浮気なんか絶対しません。付き合い酒はひかえます。貧乏もなるべくしません。」

 

音無響子

「…そんなことじゃ泣きませんよ。怒るけど。

お願い…一日で良いから、あたしより長生きして…

もう、ひとりじゃ、生きていけそうにないから…」

 

五代裕作

「…決してひとりにはしません…」

 

音無響子

「約束よ…」

 

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いやあ、良いプロポーズですねえ。その中にもいくつか重要なポイントがあるので、ひとつずつ見ていきます。

 

「貧乏もなるべくしません。」

 

プロポーズでシリアスなシーンで泣かるシーンなのにこれですよ。泣きながらクスッと笑ってしまうんです。こういう泣かせながらもめぞん一刻らしい笑いをポイントに入れる、シリアスなシーンだけど笑えるポイントを少し入れる。このバランスがめぞん一刻なんです。「貧乏しません」ではないんです。「なるべくしません」なんです。社会人1年目ですし、自分の能力では金持ちなんてちょっと…と思っているのでしょうが、それにしても五代君正直です。

 

「…そんなことじゃ泣きませんよ。怒るけど。」

 

浮気、付き合い酒、貧乏に対する響子さんの回答がこれです。つまり、1回くらいの浮気は許してくれるんでしょうか…。まあそれはともかく、響子さんは前夫と死別という、ある意味最も過酷な別れ方をしているので、多分この辺の堪忍袋(離婚)のハードルって相当高いところにあるのでしょうね。恐らく響子さんから別れようなんて、本当に天地がひっくり返るくらいのことがないと言い出さないんだろうなと思います。

 

「お願い…一日で良いから、あたしより長生きして…もう、ひとりじゃ、生きていけそうにないから…」

 

めぞん一刻と言う物語、そして響子さんの気持ちがこの言葉に全て集約されていますね。

 

五代君がどうプロポーズをするのかが大注目だったわけですが、それと同時に響子さんがどう受けるのかも見物でした。五代君のプロポーズに対する返答がこれですからね。惣一郎さんとの死別、気持ちの区切り、五代君への気持ち、受け入れ。全てがここに集約されていると思います。

 

このプロポーズの言葉もコンパクトに収まっていて、何ページにもわたってクドクドとやらず、3ページほどの遣り取りでした。お父さんの気持ちの吐露もそうでしたが、ダラダラ引き延ばさない言葉の密度もめぞん一刻の好きなところです。

 

プロポーズのその場にお父さんが

五代君は、お父さんの響子さんを思う気持ちを理解し、それを汲んだ上で響子さんにプロポーズをしました。そしてこのプロポーズをお父さんが全部聞いていると言うね…。これだけ感動的でシリアスな話なのに、やはり最後はちょっと笑わせて終わる、これがめぞん一刻なんですよね。だからこそユニークな作品なんです。

 

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あれだけ再婚に反対していたお父さんが、特に賛成に回った描写も話も無かったのですが、この五代君の真摯な気持ちを目の前で聞き、それで納得したんだろうなと、なんの説明も描写も無くてもわかります。この辺りも本当に上手いです。これくらいきっちり五代君の気持ちがお父さんに伝わらないと、あれだけ反対していたお父さんが賛成に回りようがないですからね。お父さんも娘をこれだけ思ってくれる男性がいることを、直接目の前で確認出来たので、もしかしたら世界一幸せなお父さんなのではないでしょうか。娘がプロポーズされる瞬間を見られるお父さんなんて、世界に何人もいないでしょうからね。

 

おわりに

ああ…遂にめぞん一刻でやるべき全ての事は終わってしまいました…。あとはどう綺麗に終わらせるかだけです。めぞん一刻としてのストーリーはこの話で実質終わりです。

 

この、五代君と響子さんが結婚出来て嬉しいような、それでいて話が終わってしまう悲しいような複雑な気持ちは、未だに他の漫画で経験したことがありません。この話を読み終わりたくない、もっとこの楽しい世界を見ていたいと思った漫画は唯一これだけです。そしてその気持ちはもう何十回読んでいますが毎回変わりません。

 

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