今回レビューするのは、魔夜峰央さん原作の映画『翔んで埼玉』です。
原作がユニークで面白かったので観に行ったのですが、原作部分は少なく7割方オリジナルのストーリーでした。
それでは早速レビューを書いていきたいと思います。
未見の人が知らない方が良いネタバレについては、このようにオレンジ色のマーカーで、ネタバレの始まりと終わりを注意します。重要なことを強調する黄色のマーカーとは別なのでご注意ください。
目次
あらすじ・解説
かつて埼玉県民は東京都民からひどい迫害を受け、身を潜めて暮らしていた。ある日、東京でトップの高校・白鵬堂学院の生徒会長で東京都知事の息子・壇ノ浦百美(だんのうらももみ)は、容姿端麗なアメリカ帰りの謎の転校生・麻実麗(あさみれい)と出会う。互いに惹かれ合うも、実は麗が埼玉県出身だったと知る百美。そして、東京と埼玉の県境で引き裂かれる2人。まさに埼玉版「ロミオとジュリエット」とも呼べる愛の逃避行と、その中で埼玉県解放を成し遂げるべく戦いを挑んだ者たちの革命の物語である。
大都会東京から虐げられた埼玉が、自由を求めて徒党を組み戦うという原作の設定に、新たに“千葉”という対抗組織も用意。同じく東京から迫害を受けている埼玉と千葉が、どのように物語を形成していくのか……、相容れない土地に生まれた二人の間に芽生えた“愛”がどうなっていくのか……2つのテーマを携えた予測できないストーリーが完成した。
3点要約
- 埼玉ディスりを逆手に取ったギャグ映画
- オリジナルストーリー満載
- 良い意味でバカ映画
揺さぶられる感情
- 笑い
長所と短所
- ◎埼玉ディスりを突き詰めたギャグ
- ○独特の世界観
- ○原作の中途半端な未完を完結させた
- △対千葉が大きな要素を占める
- △結構セクシャルなシーンもある
- △原作部分は2,3割でほとんどがオリジナルストーリー
- △現代パートは功罪あり
- ○エンディングテーマが面白かった
- ○埼玉県民として見て面白かった
スタッフ
- 監督:武内英樹
- 原作:魔夜峰央
- 脚本:徳永友一
- 製作:石原隆、村松秀信
キャスト
- 二階堂ふみ:壇ノ浦百美
- GACKT:麻実麗
- 伊勢谷友介:阿久津翔
- ブラザートム:菅原好海
- 麻生久美子:菅原真紀
作品データ
- 上映時間:107分
- 映倫区分:G
動画
感想
◎埼玉ディスりを突き詰めたギャグ
この映画は魔夜峰央さん原作の漫画『翔んで埼玉』の映画版です。何故か30年前の漫画が今になってTVで取り上げられ、その奇抜なストーリーが話題となり映画化…との流れです。映画では最初に原作者が登場。不思議なバレエのダンスに囲まれ、このお話はフィクションですと告知していました。埼玉ディスリが突き抜けているので、本当の話じゃないですよ、ギャグですよとの強調はいたるところに出てきました。
原作の特徴通り、全編にわたって埼玉ディスりが健在でした。詳しくは後述しますが、原作が3割ほどでオリジナルストーリー部分が多いのですが、この部分でも原作テイストの埼玉ディスりが健在で良かったです。
○独特の世界観
原作の東京・白鵬堂学園は中世ヨーロッパのような世界で、埼玉は戦前の日本か、もっと昔のような世界として描かれており、その独特な世界観が特徴でした。実写映画でこの世界観が再現できるのか不安だったのですが…できていました。特に難しいと思っていた白鵬堂学園での中世ヨーロッパ貴族感は見事で、チープさは全く感じませんでした。
作者の魔夜峰央さんの漫画は他もそうですが宝塚のような世界です。衣装、セット、髪型、取り巻きの女子高生達もまんま宝塚でした。
ちなみに埼玉が主役ではありますが、千葉や茨城、栃木や群馬もディスり対象として出てきます。原作から追加された話がふんだんにあるので、埼玉以外の関東の話もだいぶ膨らませていました。
○原作の中途半端な未完を完結させた
原作は100ページ超の全3話で未完結でした。それも取り敢えずすらの完結もさせていない中途半端さで、これから伝説の埼玉解放戦線のリーダー『埼玉デューク』を探しに行ったところで終わりだったんです。今回の映画化では漫画では未完だったこの翔んで埼玉を完全に完結させました。
△結構セクシャルなシーンもある
『パタリロ』の作者と同じ方なので、結構セクシュアルだったりボーイズラブ的シーンもありました。
冒頭でのストリップのようなステージ。原作でもあった主人公の麻実麗(GACKT)が白鵬堂百美(二階堂ふみ)にキスするシーン。映画オリジナルキャラの阿久津翔(伊勢谷友介)が都知事の奥さんの壇ノ浦恵子(武田久美子)を押し倒すシーン。子供と見に行く場合は少し注意が必要かもしれません。特に麻実と阿久津のキスシーンはあえぎ声もあったり…。ただ、子供と来ている客も結構多かったですし、冒頭のストリップのようなシーン以外はあっさり終わるので、気にしすぎることもないのかもしれません。
△原作部分は3割でほとんどがオリジナルストーリー
1番イメージと違って驚いたのは原作部分が凄く少なかったところです。映画が始まって最初の40分くらいで原作部分はほぼ全て終わってしまいました。あとは前述したように映画オリジナルストーリーです。原作漫画好きの方からすると賛否分かれるかも…。ただ、原作は本当に未完で中途半端でしたので、オリジナルの割合の多さには驚きましたが、こうなることは必然でしたし、そこはわかっていました。
また、原作部分も結構改編がありました。麻実が埼玉県民ではないことを証明するために、埼玉県知事の写真を踏むようにされる踏み絵のシーンでは、それが草加せんべいに変更。その他には麻実が実家の所沢に帰らない、麻実の父親の家が変わった、などなどです。
最も大きい変更は百美が麻実を陥れるために実施したテストが、実際にGACKTさんがやっている格付けチェックにしたところです。ダウンタウンの浜田雅功さん司会で、ワインの判別なんかをやり、本当にセレブなのかテストする番組がありますよね。まんまあれをやっていました。東京都内の空気を入れた瓶を嗅ぎ、どこの空気か当てる『東京テイスティング』というもの。具体的に順番にどこの空気だったかと言うと…。
スクランブル交差点 渋谷
麻実麗(GACKT)「人の密集地帯。しかし加齢臭が少なく臭いもまだ幼い。」
白金
麻実麗(GACKT)「ハイブランドの香水の匂いと飲食店のダクトからあふれ出る高級食材の臭いとが入り交じる。気品高い芳香。銀座の…いや、かすかに香る赤子達の臭い。昼下がりのランチ時。これは…マダム達の集まるハイソな街…白金。」
西葛西
麻実麗(GACKT)「なんなんだこの臭いは…。スーンと鼻につくスパイシーな臭い。まるで異国の地。インドの香り。あと…ほんのりと潮風の臭いがする。これは、東京で最もインド人が多く住み、なおかつ海が近い場所…西葛西」
△対千葉が大きな要素を占める
ここから次のオレンジ色のマーカーまではネタバレが含まれています。
別に短所とは思っていませんが、映画のオリジナルストーリーでは埼玉vs千葉が大きな要素を占めていました。千葉も解放戦線を持っており、埼玉と千葉は通行手形撤廃を求めて競っているライバルだとか。現実でも関東第3の県はどこかで、埼玉vs千葉の構図は取り上げられることがありますがこれを揶揄したものです。
TVCMで川を挟んで埼玉解放戦線が戦おうとしているのは、てっきり東京都だと思っていたのですが、あれは千葉解放戦線でした。お互いに出身の有名人を巨大画像で掲げて勝ち負けを競ったりしていて面白かったです。
ネタバレはここまでです。
△現代パートは功罪あり
この映画の話の構成として特徴的なのは、現代パートと伝説パートがあることです。
まず最初に現代パートで、熊谷在住の埼玉出身の父菅野好海(ブラザートム)、熊谷在住の千葉出身の母(麻生久美子)、熊谷在住の娘(島崎遥香)が、車で娘の結納へ出掛けるのですが、その車の中で流れていたラジオで、こんな都市伝説があるんですよ…と語られているのが、翔んで埼玉本編の話です。つまり、現代パートで都市伝説を聞いている親子がいて、その都市伝説を映像として表現しているのが伝説パートです。
何故このような複雑な構成にしたかというと、おそらくいくつか理由があります。
- 現実ではないことを強調したい
- 現在の埼玉ネタを入れたい
この映画はとにかく埼玉をディス(バカにす)るので、一歩間違えると炎上してしまいます。あまりにも馬鹿げていて大袈裟なので、誰もが冗談だとはわかるはずではありますが、それでも念には念を…ということでしょう。このような現実ではないとのアナウンスや、埼玉をディスった分持ち上げるシーンは結構頻繁にありました。
また、原作は30年前です。原作時にはなかった埼玉ネタもこの30年の間にたくさん出てきました。作中最も多く取り上げられた顕著な例では、さいたま市が平仮名だということ。埼玉県民を識別するゴーグルにはさいたま市の『さ』の文字が表示されます。
意図は分かるのですが、気になったのはこの現代パートと伝説パートが頻繁に入れ替わり交互になっていること。折角伝説パートで翔んで埼玉の独特で耽美な世界に入っていても、現代パートでフッと現実に引き戻されてしまいました。頻度としては15分から20分に1回程度この現代パートが数分入ってくる感じ。個人的には最初と最後だけでも良かったんですけどね。ただ前述しましたが、この現代パートのおかげで『今の埼玉ネタ』をふんだんに入れられたのも事実。
○エンディングテーマが面白かった
エンディングテーマ曲は『はなわ』さんの『さいたまのうた』でした。この映画のために書き下ろした曲で、埼玉あるあるをネタにした歌です。
エンディング後に話が続くわけではないのですが、この歌の歌詞が面白く、きちんとテロップが出ていたので、観客は誰一人帰らずスクリーンを見ていましたし、本編と同じく笑いも起こっていました。
○埼玉県民として見て面白かった
私は埼玉県民なのですが面白かったです。わかりやすいブラックジョークなので嫌な気持ちには一切なりませんでした。
作中ではいくつか埼玉独特のローカルネタが出てきたので、他県の方にはわからない部分もあったのではないでしょうか。独断と偏見も入ってしまいますが、少し解説しておきます。
大宮と浦和の対立
大宮で生まれ育ちましたが、自分も周囲の人間も浦和に敵対意識なんて持っていません。政治的なことはともかく、住人にとってライバル意識も敵対意識もないと思います。少なくとも私の周りではそうです。完全に架空のネタだと思ってくれて良いです。
与野はすっこんでろ
与野は存在感のない地区ということです。大宮と浦和という、埼玉屈指の地区に挟まれた面積も小さい与野は、埼玉では存在感がなく忘れられがちな地区なんです。そんな空気の与野はすっこんでろ…と。発展度合いやお店の豊富さなんて大宮と浦和と全く変わらず、閑静な住宅街が多いので良いところなんですけどね。
郷土愛がない
これは…多分あってます。これも自分、自分の周りで埼玉愛がある人は皆無です。遊ぶ場所も観光地もありませんからね…。これは埼玉県民は自覚しています。だからこそ、Jリーグで浦和レッズができたとき、ワッとそこに集中して、日本最大の人気クラブになったんです。ちなみに、だからと言って埼玉が嫌いなわけではありません。生まれ育った街ですからね。
埼玉には何も無い
前述したように埼玉県民だからこそわかっています。自覚もあります。住んでいれば分かりますよ。なにもないことくらい。とは言え、最近は秩父の観光に力をれていたり、川越が小江戸と言われ観光地化していることで、少しは変わってきているのかも?
総評
原作が未完だったこの翔んで埼玉を、映画で完全に完結させてくれたのは良かったです。まさか30年前の漫画が今話題になり映画化するとは、なにが起こるのかわからないものです。
GACKTさん本人も、自分が高校生役をやることについてTVで言っていましたが、違和感は全くありませんでした。高校生とか年齢とか、この世界観とぶっ飛んだキャラクターだとどうでも良いですからね。たまたま高校が舞台だったというだけです。
この映画はいわゆる馬鹿映画です。馬鹿映画とかB級映画好きな方にはドストライクの映画です。洋画だとこのような馬鹿映画ってジャンルは確立していて、固定ファンもいるので立場を確立しています。しかし邦画でここまで突き抜け、それでいてしっかりしたものは珍しいと思います。このような意味でも映画好きは1度見ておくと良いかもしれません。
悲しいとか切ないとか、ネガティブな感情が一切湧いてこず、馬鹿馬鹿しくて笑うだけの映画なので、落ち込んでいるときにも良いかもしれません。なにも考えず、悩まず、笑える映画です。
こんな人にお勧め
- 馬鹿映画が好きな人
- 地域ディスりのブラックジョークを笑って許せる人
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