今回レビューするのは、魔夜峰央さんの漫画『翔んで埼玉』です。
先日、シティーハンターの映画を観に行ったのですが、そこで流れていた映画『翔んで埼玉』の予告が面白そうで興味を持ち、まずはすぐに読める漫画を読んでみました。随分古い漫画なので今更ではありますが…。
それでは早速レビューを書いていきたいと思います。
ちなみに、未読の人が知らない方が良いネタバレについては、このようにオレンジ色のマーカーで、ネタバレの始まりと終わりを注意します。重要なことを強調する黄色のマーカーとは別なのでご注意ください。
目次
あらすじ
出身地・居住地によって激しい差別が行われている、架空世界の日本。東京都区部の名門校・白鵬堂学院に麻実麗という男子学生が転入してくる。容姿端麗で都会的な物腰を身に着け、学問・スポーツ共に優れた麗に学院の学生たちは魅了され、当初は麗に反発していた、自治会長・白鵬堂百美もやがて麗を慕うようになる。
しかし、麗の正体は埼玉県で一・二位を争う大地主・西園寺家の子息だった。麗の父親は大金を使って麗を、東京都の丸の内で証券会社を経営する麻実家の養子にし、さらにアメリカ合衆国に留学させて、都会的な物腰を身につけさせ、ゆくゆくは麗を政治家にして、埼玉県民に対する差別政策を撤廃させようと目論んでいたのだ。
長所と短所
- ○ディスりもここまで行くとありになる
- △絵柄は古い
- ○差別を面白おかしく描いた意欲作
- ◎全てが嘘、大袈裟、紛らわしいだからこそ成り立つ
- ×未完結
感想
○ディスりもここまで行くとありになる
世間でよく言われる『ダサイタマ』ってありますよね。いつ誰が言い始めたのか、埼玉=ダサイの冗談だか本気だかわからないインパクトのあるフレーズ。このイメージを限界まで持っていき、埼玉はとんでもなく差別されている、身分制度として埼玉は最下層。そして、その埼玉生まれの東京都民になりすました主人公『麻実麗』が、埼玉への差別をなくそうと立ち上がる話です。
…なのですが、このあらすじだけを文字そのままに捉えると、シリアスなものかと思う方もいるかもしれませんが完全にギャグ漫画です。と言うか馬鹿漫画です。
完全架空の世界設定であり、埼玉がディスられまくっているお話で、馬鹿なことを大真面目にやる系ですね。本人(キャラクター)らは大真面目に「埼玉解放だー」と息巻くのですが、ところどころに出てくるトンデモ設定だったりで、読者にしてみれば「おいおいw」、「そんな馬鹿なw」とのギャグ漫画に変換されちゃうんです。
読み方としては、大仰に埼玉を嫌悪したりディスったりする様を見て、そのあり得ない様に笑う…と言った感じです。あり得ないほど大袈裟だからこそ笑えるのであって、気を遣って少しでもこれをゆるくしたら、それこそリアリティが出ちゃって笑えないと思います。
埼玉ディスりでは、「(埼玉県民には)そこらへんの草でも食わせておけ!」なんてのがありますからね。凄いです。あり得ない埼玉ディスリの名言の数々。
また、主人公が百美に「所沢に来るか?」と言ったらフリーズしていましたからね。埼玉とは一体…。
更に埼玉以外でも茨城はもっと僻地として描かれていたり、新潟などのこともチラッと出てきました。茨城は埼玉以上に貧しくて納豆しか生産できないとか…。
△絵柄は古い
絵柄はさすがに80年代の漫画なので古いです。ただ、前述したように真面目なストーリー物ではありません。セリフや大仰なリアクションを見て笑うタイプの漫画なので、絵柄の古さはそこまで気になりませんでした。
また、世界設定も独特で貴族のような格好の人が当たり前に出てくるので、この辺りも『現実と比較しない』要素になるので絵柄は気になりませんでした。要は余りにも独特な世界観なので、ざっくり言ってしまえば絵柄なんてどうでも良い漫画の内容なんです。
○差別を面白おかしく描いた意欲作
今もたまに問題になりますが、部落差別、職業差別…もっと古いと昔は穢多非人んなんてありました。構図とはこれと全く同じです。ただ、そのまま穢多非人を差別するギャグ漫画…なんてのはさすがにNGですからね。この差別の構図を地域ディスりに変換して笑いに変えているのがこの漫画です。
今だと…地域同士の確執や冗談を面白おかしく描く漫画とはいえ無理かもしれませんね。しかし、何故か近年、この漫画が注目されて再度TVなどで取り上げられ、このたびの映画化となったようです。
◎全てが嘘、大袈裟、紛らわしいだからこそ成り立つ
JAROの広告にありますよね。「嘘、大袈裟、紛らわしい」。このような広告を見付けたら通報してください。違法かも知れないので…とのCMです。で、この漫画はこれです。嘘で大袈裟で紛らわしいんです。しかし、だからこそ成り立っている漫画なんです。
前述もしましたが、極限まで嘘、大袈裟、紛らわしいを突き抜けているので、読んでいても「これは冗談だな」、「本気で馬鹿にしているわけではないな」と読者が分かるんです。
世界観も貴族のような者が当たり前に存在しているので完全架空の日本です。1から100まで作り話です。これが漫画のセリフやリアクション、描写から分かるんです。なので、埼玉県民の私でも嫌な気持ちはせず笑って読むことができました。
ただ、本当にこういうディスりはダメってタイプの方だと、冗談でも架空でもギャグとしてでも受け付けないかもしれません。
ちなみに、ヒロイン…ではないのですが、まあ立ち位置的にはそこにいるキャラクターは『白鵬堂百美』。男です。
×未完結
物凄く面白い馬鹿漫画なのですが、残念なことは完結していないことです。3つのエピソードで合計100ページほどで終わりです。「これから埼玉解放のキーマンを探して会いに行こう!」で終わりという…。
この終わり方は何故かと調べると、当時作者の魔夜峰央さんが埼玉から東京に引っ越してしまったため、その立場になってしまうと、埼玉ディスリの『自虐』が成り立たなくなるからだそうです。
不定期連載時は埼玉に住んでいたからこそ、埼玉を馬鹿にされることについて思うことがあり、埼玉に住んでいる自分だからこそできる自虐があると思ったのでしょう。東京在住の作者が埼玉ディスりをすると、その自分自身の中での正当性がなくなると思ったみたいです。
今度上映する映画版では、漫画未完後のこともオリジナルストーリーとして展開して完結させるとか。更に映画を観る意欲が湧いてきました。楽しみです。
総評
馬鹿にされがちな埼玉を、「だったら極限にまで馬鹿にされている世界で漫画を描いてやる」と言うアイディアは凄く面白いです。それがまた中途半端ではないんです。徹底的に埼玉は虐げられます。埼玉解放同盟なんて武装蜂起組織まで出てくるくらいですよ。
ダサイタマと言われて本気で傷付いている方や、嫌がっている方もいると思うのでデリケートな問題ではありますが、埼玉ディスりにそこまで抵抗がない方は、100ページくらいでサクッと読めるのでお勧めです。
こんな人にお勧め
- 馬鹿な漫画が好きな人
- 埼玉ディスりが究極の世界になったら…のifを読みたい人
- 地域格差の究極ギャグを見たい人
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