目次
掲載情報
掲載雑誌
- ビックコミックスピリッツ 1987年4月6日号
アニメでは
時系列とでき事
- 1987年1-2月 五代裕作、実家に響子さんを連れて挨拶に行く
この頃のでき事
- 4月1日 - 国鉄が分割・民営化され、JRグループ7社(北海道・東日本・東海・西日本・四国・九州・貨物)が発足。
- 4月4日 - 有明コロシアムが完成。
- 4月12日 - 中嶋悟が日本人初のフルタイムF1ドライバーとしてF1開幕戦でデビューする。
- 4月18日 - 大阪市営地下鉄御堂筋線の我孫子駅 - 中百舌鳥駅間が延伸開業し全通。
- 4月21日 - 花王が日本初のコンパクト洗剤「アタック」を発売。洗剤コンパクト化のきっかけとなる。
- 4月21日 - 三菱電機が掃除機「ダニパンチシリーズ」を発売。
あらすじ
遂に響子さんにプロポーズをし、響子さんのお父さんにも了解を得た五代君。今度は自分の家族へ響子さんを紹介しに帰郷します。再婚であり、年上であることで、受け入れてもらえるか不安に思う響子さん。しかし、あっさりと家族から受け入れられ、そしてお婆ちゃんから大事な指輪を受け取ります。
みどころ
- 響子さんが五代君の家族に受け入れられる様
- 相変わらずのお婆ちゃん
はじめに
前回は、響子さんのお父さんから結婚の許しを得た話がありましたが、今回は五代君の家族へ響子さんを紹介する話です。響子さんへプロポーズをし、千草家の了解を得、そして今度は五代家の了解を得る。結婚の過程では当然のことなのですが、漫画というフィクションでここまで丁寧に、一つ一つ現実的に物事を消化していく事は珍しいです。このように、まるで現実の話を見ているかのごとく、丁寧に手順が消化されていくので、本当にこのめぞん一刻の世界がリアルに、そして身近に感じてのめり込んでしまいます。
心配する響子さん
響子さんは、自分が再婚であること、そして年上であることに負い目を感じ、五代君の家族に受け入れられるのか不安がっていました。…が、そんな心配はどこ吹く風。そう、響子さんと仲が良いお婆ちゃんがいるじゃないですか。お婆ちゃんを籠絡しているただ一点で、響子さんが五代家に受け入れられるのは火、を見るより明らかでした。
ちなみに、五代君の実家は新潟県新潟市です。そして高橋留美子さんの出身地も新潟県新潟市です。作中出てきた五代君が帰郷した駅は、その新潟駅の万代口のようです。一刻館のある場所は東久留米駅近辺で、こちらも高橋留美子さんが、連載当時住んでいた街です。作者自身の出身地と住んでいた街をモデルにしていたみたいですね。当時、めぞん一刻を読んでいて、東久留米や新潟市の風景が出てきたときは、この近辺にに住んでいた人はたまらなかったでしょうね。なにせ大好きなめぞん一刻の登場人物が、自分の知っている街を行き来しているのですから。
…と、横道にそれましたが、五代家に受け入れてもらえるか心配していた響子さんですが、駅に迎えに来たお婆ちゃんを見て一安心。すぐに「うちの響子さん」と言っていましたからね。お婆ちゃんは響子さんが再婚していることや、前夫が亡くなっていること、そして五代君がずっとウジウジ片思いしていたことも知っており、そしてその様子を直に見ていました。五代家の長老であるお婆ちゃんが受け入れれば、それはイコール五代家に受け入れられたのと同じです。
定食五代営業中
五代君が響子さんを連れて実家に帰ったところ、何故か定食五代は通常営業中。普通に考えると大事な日なので、休業にして家族で色々話す場をもうけると思うのですが、お婆ちゃんの提案で、気を遣うことはない、そして近所の人に紹介する手間が省けるとのことで営業していたのでした。
ちなみに、このとき厨房でお父さんと供に、見慣れない男性が五代君の帰りを出迎えていましたが、この人は五代君の義兄、つまり五代君の姉の夫です。以前、五代君が就職活動に窮していたとき、実家の定食屋を継がせて貰おうと帰郷した際、この姉夫婦がいました。そして、この姉夫婦が定食屋を継ぐことが話されていましたが、きちんとその後継いだようですね。高橋留美子さんはこのように、自分が過去に出したエピソードをきちんと覚えて利用します。中には…と言うか結構な漫画家が、自分が昔出した設定やキャラを忘れるというのに…。この辺りの丁寧さも、過去から現在の話の繋がりを感じて好きです。
お婆ちゃんのプレゼント
このときは1987年の1月か2月。五代君の就職が決まったのがその前年の1986年の11月頃。五代君はほんの2,3ヶ月前に正式に勤めだしたわけで、お金に余裕が無いだろうと案じたお婆ちゃんは、自分の葬式代に貯めた金だけどと言い、五代君へ預金通帳をプレゼント。一方響子さんには、お爺さんから貰った思い出の指輪をプレゼント。タイトルかの「形見」からもわかるように、話のメインはこの響子さんへの指輪のプレゼント(形見)なのですが、きちんと五代君にも現金をプレゼントしています。
そして前回、響子さんのお父さんの泣ける話がありましたが、今回は五代君のお婆ちゃんの泣ける話です。前回は響子さんの家族(お父さん)、今回は五代君の家族(お婆ちゃん)の話になっています。二つの家族ともに同じようにスポットライトを当て、同じように感動する話を作るバランスの良さと丁寧さは素晴らしいです。どちらか一方だけにスポットライトを当てたり、どちらか一方だけの話に比重を置くわけではなく、同じように取り上げて話を作りましたからね。
五代ゆかり(お婆ちゃん)
「裕作はおれが育てた子ら。
抜けてて頼りないやつらけど、おれは精一杯いい子に育てたつもりら…
どうか添いとげてやってくんなせ。」
前回あったお父さんの心情の吐露、五代君のプロポーズに続き、またしても涙が…。なんなんでしょうねこのめぞん一刻の言葉の威力。今回も長々と説明するわけではなく、ほんの3コマだけのセリフです。それでお婆ちゃんの気持ちを全て表し、五代君への思いも全て表す。この言葉のセンスとか組み立ては、高橋留美子さんの作品の中でも、やはりめぞん一刻が飛び抜けているんです。そして、また少し言葉を一つ噛み砕いてみます。
「裕作はおれが育てた子ら。」
五代君の実家は、今回の話でもわかるように定食屋です。初期の賢太郎との話でも出てきましたが、五代君が子供の頃、両親が定食屋で忙しく、ろくに夏休みなど遊びに連れて行ってもらえなかったそうです。と言うことは、その頃の五代君は誰が面倒を見ていたのかと言えば、当然このお婆ちゃんです。お婆ちゃんが一刻館へ上京してきたときの回想でもありましたが、幼少期の五代君を育てたのはお婆ちゃんです。そういった意味でも、一般のお婆ちゃんと孫の関係よりも、更に強く「おれが育てた子」との感覚が強かったのでしょう。また、五代君はこのとき25歳なのですが、それでもやはり「子」扱いなんですね。親にとって子供はいつまでたっても子供だとよく言いますが、お婆ちゃんにとっても五代君はいつまでたっても孫なのでしょう。
そして、これだけ良い話なのに、最後はお婆ちゃんが死んだふりをして笑ってオチました。これも、前回のお父さんがプロポーズを聞いていたオチと同じ展開ですね。凄く良い話で感動するなあと読者を泣かせておいて、最後は泣きながらもクスッと笑って終わる。これがめぞん一刻なんです。泣きながら笑うなんて体験は、現実でもなかなか無いと思うのですが、めぞん一刻を読んでいると、その不思議な感情の揺さぶりが味わえます。
総評
さて、遂に両家の了解も得たことにより、五代君と響子さんの間の関門は全て取り払われました。
- 浪人と未亡人という立場(人生経験)の隔たりが障害
- 年下の男と年上の女性との年齢の隔たりが障害
- 大学生と社会人との立場の隔たりが障害
- イケメン&金持ちの三鷹さんがライバルになり三角関係①が障害
- こずえちゃんに気に入られて三角関係②が障害
- 就職浪人の障害
- 保母試験の障害
- 惣一郎さんの影の障害
- プロポーズの障害
- 再婚に反対する響子さんのお父さんの障害
まだまだ細かい2人の障害を挙げるとキリが無いのですが、これらの障害が一つ一つ丁寧に取り除かれ、そして遂にゴールインです。連載を追い掛けていた人にとっては、実に6年に及ぶ物語で、15歳の中学生は成人式を過ぎ、20歳の大学生ならば26歳になり、結婚していてもおかしくない年月です。あの冴えない浪人だった五代君が、遂に高嶺の花だった響子さんとくっつくなんて感無量です。
これは勿論、漫画の世界の話で、現実に五代君や響子さんがいるわけではありません。これまで何回も五代君の人格や行動を考えたり、成長を感慨深いと言ったり、めぞん一刻を知らない人からしたら、なにを本当の世界のことのように語っているんだと思われるかもしれません。それは当然の感想なのですが、この漫画を読んでしまうと、現実に即したリアルなラブコメを描いていることも関係していると思うのですが、どうしてもこうやって現実の物として考えてしまうんです。それくらいこの世界にはまってしまいますし、現実にいそうでいない、ありそうでない、絶妙のラインを突いてくる話と世界観なんです。
うる星やつらやらんま1/2なら、突飛な話だったりファンタジーな世界なので、感情移入するとしても、ある程度「傍観者」の気持ちも残りながら読んでいると思うのですが、このめぞん一刻の場合、読んでいて傍観者ではいられないんです。そして、世界観に没入したり、感情移入すればするほど、物語が感動的だとシンクロして自分も感動して泣き、笑える話だと自分も笑ってしまい、そして登場人物が幸せだと自分も幸せになってしまいます。これは、前述したように、現実のような話であったり、いそうでいない人たちだったり、そのほかにも細かい要素が色々組み合わさっての奇跡の世界観だと思うのですが、気付いたらこの世界にどっぷりと没入してしまう感覚は、何回読んでも変わりません。
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