あらすじ
つくし信用金庫(つく信)に勤務する金融サラリーマン、吉野太郎は勤務終了後にボクシングジムに通うプロボクサー。かつて自らの不注意により死なせてしまったボクサー花形青児に代わり、ボクシングの世界王者になるため庫員とプロボクサーの二足の草鞋を履くうちに、次第にプロボクサーとしての能力を開花させる。
やっぱり面白い
先日、電波の城を読んでかなり茫然自失状態に陥ってしまったため、楽しい漫画を読んで気分を入れ替えたいと思い、同じ細野不二彦さんの漫画ですが、この太郎を久々に全巻一気読みしました。当然過去に読んでいるお気に入りの漫画なので、面白いことはわかっていたのですが、改めて読み直してもやはり面白かったです。
感情移入
この太郎と言う漫画は、昼はサラリーマン、それが終わればプロボクサーとの話なのですが、社会人にしてみるとこのサラリーマンとプロボクサーの二足のわらじの話は、非常に感情移入しやすくワクワクします。誰しもが少なからず持っているヒーロー願望の琴線にびしびし響いてきます。
サラリーマンパートの信用金庫では、社会人の苦労や人間関係もきっちりと描いていて、ボクシング漫画のオマケにサラリーマンパートを描いていると言うわけではなく、サラリーマンの話も信用金庫の専門用語や特殊性なども詳細に描いています。
細野不二彦さんの漫画の特徴で、「二つの顔を持つ主人公」と言うのがあるのですが、この太郎もプロボクサーとサラリーマンと言う二つの顔を持つ細野不二彦さん得意の話です。また、細野不二彦さんが凄いのは、この二つの話を並行して進め、かつ両方とも専門的な話まで詳しく描き、どちらかがおざなりになることがないんです。二つの顔の話を両方を平等に進めるんです。
大抵こういった話を並行して進める漫画だと、どちらかに重きを置くものなのですが、細野不二彦さんの場合、この二つの話を50:50で全く平等に進めます。実はこれって中々ない特徴だと思います。
清濁併せ持つ
前段でも述べた細野不二彦さんの特徴で、「二つの顔を持つ主人公」があると描きましたが、もう一つ特徴があって、それは「清濁併せ持つ話」を描くことです。簡単に言うと、きれい事ばかりではなく、人間の醜い部分、胸くそ悪くなるエピソードも描くってことです。この太郎はそれでもダークな部分は少ない方なのですが、太郎の彼女のあゆが新興宗教に嵌まったり、銀行の金を横領したりなんて、なんとも言えない気分になる話も盛り込まれています。
バランスが良い
電波の城のレビューでも散々描きましたが、この太郎も非常にバランスが良い漫画です。プロボクサーの話、信用金庫の話、恋愛の話、家族の話。これらが全てバランス良くあるので、一粒で何粒も美味しいんです。ただ、ボクシング部分の描写、絵に関しては正直迫力はありません。はじめの一歩なんかとは比べるべくもなく…。もしこの太郎がボクシング一辺倒の漫画だったなら、この部分が気になって気になって仕方がなかったと思いますが、前段でも述べたように、ボクシングの話は信用金庫の話と同じ比重で描かれているので、まあこれはこれで仕方ないかなと妥協できました。
ただ、それでもあまりにも作戦がないんですよね。試合前に相手の分析をすることはほとんどありませんし、対策なしでぶっつけ本番で試合に臨んでいるように見えます。試合当日に試合相手の名前を知るなんてこともありました。まあこの辺を詳細にやり始めると、ただでさえサラリーマンパートもあって描く事が多いので、収集付かなくなるのかもしれません。
サクサク読める
前段でボクシングの描写が薄いと書きましたが、実はこれには意外なメリットもあって、マニアも納得の濃い描写がない代わりに、その知識がない人も軽く表面をなぞるようにサクサクと読み進められるんです。
ボクシングに造詣の深い人からすれば、描写が薄く不満に感じる部分でもあるのですが、逆に言えば詳しくない人でも特に疑問を感じたり謎に思う部分なく、そしてなんと言ってもサクッと終わるので飽きずに読み進められるんです。そう言う意味で、この漫画全体の印象としても非常に読みやすく、サクサク読めるので、単行本で一気読みすると気付いたらあっという間に10巻読んでいたなんて感覚のする漫画だと思います。
こんな人にお勧め
- 感情移入して漫画を読みたい人
- ボクシング漫画が好きな人
- サクセスストーリーが好きな人
- 二つの顔を持つ主人公が好きな人
- ヒーロー願望がある人
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