動物と人間のハートフルコメディ「動物のお医者さん/佐々木倫子」レビュー 5/5 (1)

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あらすじ

大学受験前、その構内に足を踏み入れたときから、ハムテルの運命は決まっていた――。
コワイ顔でも心優しいシベリアンハスキーのチョビ、姉御肌の猫・ミケ、暴れん坊ニワトリや超個性的な大学の面々に囲まれて、獣医師への門は開かれた――!!

 

長所と短所

  • ○動物だけに頼らないしっかりとしたストーリー
  • ○動物の吹き出しなしのセリフが面白い
  • ○絵も話も物凄く丁寧
  • ○動物の毛のフワフワ感がよく出ている
  • ○時間が進んでいくストーリー性もありながら気軽な1話完結物
  • ○男女の距離感が絶妙
  • ○学園物としても面白い

 

はじめに

今回レビューするのは、佐々木倫子さんの漫画『動物のお医者さん』です。

 

この漫画は1993年に完結しているのでだいぶ古いのですが、未だに定期的に再読してしまうほど大好きです。また、大人気漫画で、モデルとなった北海道大学獣医学部の偏差値が、医学部より高くなるという珍現象まで引き起こしました。世間一般でもチョビの犬種であるシベリアンハスキーブームが起こり、そのブームが去った後に捨てられるということもちょっとした問題になるほどだったんです。それでいながら何故かアニメ化はせず、またアニメ化していないのにここまでブームになった珍しい漫画です。

 

そんな漫画好きなら誰もが知っている漫画なので今更感が強いのですが、自分が好きな漫画の記録として感想を書いていこうかなと思い立った次第です。漫画好きなら何回も読んでしまう漫画があると思いますが、これもその代表的な物で、先日2,3年ぶりに再読してやはり物凄く面白かったんです。

 

それでは早速レビューを書いていきたいと思います。

 

チョビたち動物が可愛い

主人公のハムテルたち人間に絡んでくる動物も可愛いのですが、人間たちが話している背後にになにげなくいる動物たちもまた可愛いんです。人間たちに絡まずただそこにいるだけなのですが、いつもハムテルたちのそばにいるんだなとわかったり、そこで大人しく待っていることが可愛かったり…。

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あくまで動物がテーマの中心なのですが、動物たちは喋れないので、話を進めるのは基本的に人間の会話でしかあり得ません。そのような時、動物がいる必要性がないからと2ページ、3ページ、4ページと動物が出てこないシーンが続いてしまうと、テーマである動物のお医者さんの意味がなくなってしまうんです。なので、人間の会話中にもコマの端っこに動物がいたりすることは物凄く大事なんです。これがないとなんの漫画なのかわからなくなってしまいます。

 

そして、この動物のお医者さんは、動物の絵柄がリアルタッチであるだけではなく、その行動ややることも基本的に実際に動物がやりそうなことばかりです。大袈裟に動物を目立たせるためのわざとらしい漫画的行動はほぼありません。忙しいご主人を健気に待つチョビだったり、気まぐれなミケが突然遊んでくれ攻撃してきたり、はたまた雷に怯えるチョビだったり。動物を飼ったことがある人なら、「あるある」とクスッとしてしまうようなエピソードが満載です。

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『どうよ、こんな動物の仕草可愛いでしょ』なんてわざとらしい演出過多なことがほぼないので、現実にいる動物の可愛さ、滑稽さがそのまま漫画の紙面上に再現されている感じです。

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モフモフ感が素晴らしい

チョビたち動物の絵を見てみると、犬や猫、ネズミなどの毛のモフモフ感が素晴らしいんです。このような毛を1本1本線を丁寧に描いていったんだろうなあと思うと頭が下がります。

 

また、漫画に動物を出す場合、藤子不二雄さんや手塚治虫さんの漫画で出てくるように、デフォルメされている場合が多いと思うのですが、この動物のお医者さんは完全に実物の動物をそのままトレースしています。これについては最初違和感があったのですが、このリアルな動物がする仕草や、吹き出しのない台詞の滑稽さで可愛く面白く見え、すぐに馴染んでしまいました。

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思い切り動物を主題にする漫画なので、ここはどうするか悩んだかも知れませんね。漫画的可愛さを出すならある程度デフォルメする方法もあったでしょう。しかし、モフモフ感などはデフォルメしてしまうと失われてしまう可能性が高いので、結果的に正解だった気がします。

 

人間も魅力が一杯

主人公のハムテルに人間味がない分、周りのキャラが個性豊かで非常に魅力的です。特にこの漫画で最も多く出てくる女性キャラの菱沼さん、破天荒な漆原教授は個性豊かで面白い。

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クールな主人公でありがちなのですが、クールすぎて不自然だとか癪に障るなんてことが、このハムテルでは一切感じませんでした。これは話の運びが上手いからなのか、主人公のキャラ付けが上手いからなのか、周りとのやりとりでクールなキャラが中和されているのか…。とにかく嫌悪感は一切感じませんでした。また、主人公の親友二階堂も特に個性はなく、ごくごく普通の性格のキャラなのですが、何故か上手いことこの普通の2人で話が回ってしまいます。

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そしてやっぱり菱沼さん。最初のキャラ設定は若干定まっていなかったものの、数回登場するとそのキャラは独特で動物のお医者さんに欠かせなくなりました。菱沼さんは変わったキャラなのですが、一応現実にいそうなキャラなんです。主人公のハムテルと親友の二階堂もそうです。その他周りのキャラもあくまで現実に則したキャラなのですが、、唯一現実ではあり得ないような非常識なキャラがいます。それが漆原教授です。

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全員が全員普通の人間かちょっと変わった部分がある人間だけでは、漫画的に話を動かしづらかったからでしょう。漆原教授だけは他の現実にいそうなキャラとは違い、あくまで漫画の中だけでしか存在しないだろうなというキャラでした。

 

主要キャラ

物語を動かす主要キャラは、主人公のハムテルこと西根公輝。主人公ハムテルの親友である二階堂昭夫。この2人の先輩である菱沼聖子。この3人が頭1つ抜けた主要キャラで、大抵の話でこの3人が出てきます。

 

彼ら主要キャラ3人から1段落ちるところに、ハムテルたちの教授の漆原信(まこと)教授。常識人で漆原教授の珍行動に頭を悩ませる菅原教授。ハムテルたちの同級生の清原貴志。片付け魔の嶋田小夜。犬ぞりレースのブッチャーさん。そしてハムテルの祖母である西根タカ。

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動物の主要キャラは、動物の中では主人公でハムテルの飼い犬であるチョビ。西根家のペット猫であるミケ。凶暴な鶏であるヒヨちゃん。何も考えていないスナネズミたち。

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そこから1段落ちて、清原の飼い犬平九郎。犬ぞりレースに一緒に参加するシーザー。ほとんどの話は彼らが出てきて進んでいきます。

 

人間と動物どちらか一方に偏るでもなく、実にバランスの良い登場のさせ方で、それもまた視点的に心地よく、『人間の世界から見た動物たち』感が良く出ています。あくまで主人公は読者でもある人間たちで、そこに可愛い動物たちのおかしな行動が絡んできて話が進むんです。

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男女の距離感が心地よい

動物のお医者さんでは妙齢の男女が出てくるにも関わらず、恋愛の話が全くと言って良いほどありません。

 

動物のお医者さんの人間の三本柱は主人公のキミテル、その親友の二階堂、先輩の菱沼さんなので、やろうと思えば恋愛の話も十分に可能なのですが本当に一切ありません。かろうじて恋愛話の要素を探すとすれば、菱沼さんのお見合いの話が1,2話ある程度でその他は微塵もありません。ここまで恋愛の話を描かない漫画も珍しいのではないでしょうか。恋愛の話があった方が良いと思う方もいると思いますが、恋愛がないおかげで本当に安心してマッタリ読めるんです。この先彼らの人間関係はどうなってしまうのだろう的不安感はありませんし、3人の関係が不動なので良くも悪くもドキドキしなくて良いんです。

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このように全く恋愛話がないことについては好みが分かれるところでしょうね。菱沼さんとなにかあって良かったなと思う人もいるのでしょうが、私は動物のお医者さんの作風に合っていて良かったと思います。人間の恋愛のドキドキはテーマではありませんからね。

 

佐々木倫子さんの漫画は、このように恋愛を極端に排除した物が多いですね。他の漫画でも恋愛がきちんと描かれた漫画は記憶にありません。

 

動物だけに頼らないしっかりとしたストーリー

前述した主要キャラの話でも触れましたが、人間と動物どちらか一方に偏った話はあまりなく、バランス良く人間と動物両方のキャラを出して話を進めるので、ただ動物の可愛さだけに頼った漫画ではありません。

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動物のお医者さんというタイトルを見て、表紙の動物の扉絵を見ると、動物メインで動物の可愛さを全面に押し出した漫画と思われるかも知れませんが、寧ろ人間の話がメインで、そこに味付けとして、生活の一部として動物が出てくる漫画です。あくまで主題は獣医学部に通うハムテルと二階堂と菱沼さんの大学生活コメディです。

 

また、大学生活と言っても一般教養の話はほとんどなく、獣医という専門的なことを学ぶ話がほとんどです。獣医学部ならではの大学生活、苦労、おかしな習慣、変わったテストなどなど、厳密に書くと大学獣医学部コメディでしょうか。かなりマニアックなテーマだと思いますが、このように自分の知らない世界を覗き見するのは楽しく、また知的好奇心を刺激されるもので、「へ~獣医学部ってこんなことやてるんだ」、「これは獣医学部あるあるなんだろうなあ」などなど、漫画を読んでいて知らない世界の面白さを知る楽しさも感じることができました。

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このように、本来自分の人生とは一切関わりの無い状況や競技を見てはまってしまうことってあるんですよね。例えば小畑健さんの『ヒカルの碁』もそうでした。囲碁なんてそれまで一度もやったことが無いどころか、興味すら持ったことがなかったのですが、漫画が余りにも面白く填まってしまいました。ただし…ヒカルの碁を読破しても、結局競技としての囲碁のルールは全然頭に入ってきませんでしたし、実際に囲碁をやってみようとは思わなかったのですが…。

 

自分がやったことのあること、興味のあることだけが漫画を面白く読めるジャンルかというとそんなことは全くなく、それまで全く興味が無かったことですら、漫画にすると面白く読めてしまうことがあります。この動物のお医者さんもその系統だと思います。私は元々動物が好きなので填まる要素はあったのですが、動物にそれほど興味がない人でも、動物だけに頼ったり、動物の可愛さを全面に押し出した漫画ではなく、しっかりとした大学獣医学部物語なので面白く読めると思います。

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1コマ1コマ丁寧な漫画

動物の毛のモフモフ感を出すため、毛を1本1本ペンで書いているのだろうなとは前述しましたが、このような動物の絵柄だけではなく、話の1つ1つ、1コマ1コマに丁寧さを凄く感じる漫画です。佐々木倫子さんの漫画はこの『丁寧さ』が物凄く好きです。

 

最初に読んだ時は劇画タッチの人間の絵柄に違和感を感じたのですが、人間の髪の毛も非常に細かく繊細なタッチで描いていますし、陰影の線も非常に細かく書き込んでいます。1コマの絵を見ているだけで丁寧さが分かって呼んでいて気持ちが良いんです。

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また、絵柄だけではなく話の運びも丁寧で、起承転結が非常にわかりやすいんです。教科書的とでも言いましょうか…。話はどうやって始まったのか、それがどう受け継がれて進んだのか、転じて面白くなったのか、そしてどのようなオチが付いたのか。これが非常にわかりやすく、読んでいて最初から最後まで話が緩やかにマッタリと繋がり、そして綺麗に毎回オチが付きます。この安心感というか安定したクオリティは読んでいて本当に有り難くて、個人的に佐々木倫子さんの漫画で1話も外れ回はないと思っています(原作付きは別)。

 

私が動物のお医者さんを物凄く好きと言う思い入れもあるのかも知れませんが、個人的には動物のお医者さんで「この話はいまいちだったな」と言う話すらありませんでした。勿論、話によってこの話がより好きとの順位付けはあるのですが、全ての回が80点以上という感じで面白かったです。

 

当たりの少女漫画

この動物のお医者さんは少女漫画です。内容的には男女ともに読める内容なのですが、連載誌がバリバリの少女漫画で『花とゆめ』です。昔、花とゆめを購入していた時期がありましたが、表紙が少女趣味全開なので、人がいない時を見計らってレジに持っていき、後ろに誰も並ばないでくれと祈りながら買った思い出があります。正直、私はエッチな本を買うよりも少女漫画を買う方が恥ずかしかったです。

 

と、それは置いておいて、少女漫画なので敬遠しているとしたら余りにも勿体ない漫画であることは間違いありません。もしかしたら、佐々木倫子さん独特の線の描き込みが受け付けない人がいるかも知れませんが、絵柄なんて漫画を読んでいて面白ければどんな物でも慣れてしまいます。そう、カイジのように。カイジを例に出すのは極端すぎますけどね。

 

これまでも書いてきたように、内容は少女漫画らしからぬ、恋愛要素完全排除であり、ヒロイン(?)の菱沼さんは大学院生のインテリなので、少女趣味の考え方や話は一切ありません。あまり漫画を読んだ経験がない人からすると、佐々木倫子さんのこの絵柄は少女漫画だと判を押してしまう気がしますが、このくらいの絵柄は少女漫画界では少女漫画の範疇に入りません。かなり一般向けな絵柄です。本当の少女漫画の絵柄はこんなものではありません。

 

とにかく少女漫画のジャンルだからとか、絵柄が好みではないからと読まないでいるのは余りにも勿体ない漫画です。

 

総評

動物のお医者さんを読んでつまらなかったと言う人はいないと思います。…と言ったら大袈裟でしょうか。それくらい個人的には万人にお勧めできる漫画だと思っています。しかもその対象範囲は広く、老若男女全てが楽しく読めるはずです。前述もしましたが、この読者層の広さには恋愛要素が一切ないことも影響しているかもしれません。ドロドロした恋愛話や、エッチなシーンが一切ないので、老若男女楽しめて家族で廻し読みして感想を言い合うなんてこともできる希有な漫画です。

 

こんな人にお勧め

  • 動物が好きな人
  • 大学生活コメディが好きな人
  • 専門分野の話が好きな人

 

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