漫画全話レビュー「めぞん一刻 第077話「春の墓」」 5/5 (2)

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掲載情報

掲載雑誌
  • ビックコミックスピリッツ 1984年4月30日号

 

アニメでは

 

時系列とでき事
  • 1984年4月中旬 音無惣一郎、4周忌

 

この頃のでき事
  • 4月1日 - 三陸鉄道が開業(国鉄の特定地方交通線から第三セクターに転換した初の鉄道)。
  • 4月1日 - 東京芝浦電気、東芝へ社名変更。
  • 4月1日 - 西日本銀行(現:西日本シティ銀行)誕生(西日本相互銀行が高千穂相互銀行を吸収合併した上で、地方銀行に転換)。
  • 4月4日 - フジテレビの時代劇『銭形平次』(主演:大川橋蔵)がこの日の放送をもって18年、888回の放送に終止符。
  • 4月6日 - 初代銭形平次の名優、長谷川一夫が死去。
  • 4月16日 - ダイハツ工業が「ラガー」を発売。
  • 4月19日 - 長谷川一夫と植村直己に国民栄誉賞が贈られる。
  • 4月22日 - イギリスがリビアと国交を断絶。
  • 4月27日 - 福岡市地下鉄2号線(現・箱崎線)延長部(呉服町駅 - 馬出九大病院前駅間)が開業。
  • 4月27日 - 読売新聞社(銀座)跡地にプランタン銀座が開業。

 

あらすじ

惣一郎さんの4周忌で、また再婚の話をされると思い警戒する響子さん。しかし拍子抜けする程その話題が出ずほっとするのですが、そのことばかり考えていて、お墓参りできていないことに気が付き、1人でもう1度惣一郎さんのお墓参りへ行くのですが…。

 

みどころ

  • 惣一郎さんを忘れるときが来るかも知れないと予感する響子さん
  • 惣一郎さんが亡くなったとわかった時の響子さんの様子

 

はじめに

今回は惣一郎さん4周忌のお墓参りのお話で、段々と惣一郎さんを忘れていく自分に気付き、いつか忘れるかも知れないけど、その時は許して欲しいとお墓の前で惣一郎さんに宣言する話で、響子さんの気持ちに一区切り付く重要な話です。

 

響子さん戦闘態勢

1980年の4月11日前後に惣一郎さんは亡くなっているので、今年で早くも4周忌です。そして1980年の10月に一刻館の管理人に就任したので、一刻館に来てからは3年半になります。

 

響子さんの両親は惣一郎さんの年忌でも、いつも再婚しろとせっついてくるので、今回もそうだろうと覚悟をし、まるで戦いにでも行くように勇んで一刻館を出て行くのですが、終わってみればまるで再婚の話が出ず拍子抜けしてしまいます。なんのことはない、響子さんの両親は、しつこく言っても意地になる響子さんの性格を考え、今回は敢えて言わなかっただけでした。その響子さんの性格を知っているのなら、もっと早くそのスタンスでいれば良かったのにとは思いますが…。再婚の話で響子さんの家族は不要に対立していましたからね。

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門番は五代君

少し良い話としては、響子さんのそんないつもの両親と喧嘩するお墓参りを心配して、五代君が玄関で待っていたことです。いつもは響子さんがこずえちゃんとデートに行ったり帰ってくる五代君に怒りを伝え、プレッシャーを掛けるべく門番をし、有り難くない送り出しや出迎えをするのですが、今回はその構図が逆で、帰ってくる響子さんを出迎えたのが五代君でした。

 

 

また、一の瀬さんも惣一郎さんに何を話したのか聞いたりと心配はしていたようです。響子さんと惣一郎さんの真面目な話のときなどのある条件下では、一の瀬さんは普通の人になるんですよね。

 

再びおお墓参りへ

先日の4周忌では全くお墓参りの体を成していなかった事に気付いた響子さんは、2,3日悩んだ末、再び1人でお墓参りに行くのですが、この時の塞ぎ込んでいた様子と、四谷さんの悪戯心により、五代君は響子さんがお墓の前で自殺してしまうのではないかと勘違いしてしまいます。

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ここは上手く話ができていて、五代君が勘違いする前段階として、響子さんが悩んでいる2,3日があり、それに加えて四谷さんが明らかに海苔巻きだとわかっている物体を、「細長い物」と表現して五代君に伝えたことにより、勘違いが生まれてしまいました。この四谷さんのわざとの曲解は、単純に五代君をからかうと面白いとのいつもの動機もあったのでしょうが、直接的動機は、五代君が用意していたカップラーメンを横取りするためだったようです。

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忘れていく現実

今回、両親との戦闘準備で集中できていなかったとは言え、惣一郎さんの年忌でお墓参りの本質を忘れたことにより、惣一郎さんを段々と忘れている自分に気付く響子さん。思い返してみれば、日々の管理人業務や、テニススクール、一刻館住人との他愛も無い日常で忙しく、惣一郎さんを思い出すことが少なくなっていることに気付いてしまいます。

 

このあとの八神の「弱虫」エピソード前後でハッキリわかるのですが、響子さんは根が真面目な性格なので、好きになったらその人だけであるべきと思い込んでいるので、惣一郎さんを忘れていく自分に戸惑い、ショックを受けているんですよね。喧嘩別れしたわけでもなく、嫌いになって別れたわけでもなく死別です。早い段回で五代君も気付いていましたが、亡くなった人は欠点も見えず美化されていくので無敵なのでしょう。

 

 

4周忌2回目のお墓参りでは、響子さんはこの惣一郎さんを忘れていく現実を受け止め、そのうち忘れていくかも知れないけど許して欲しいと、心の中で宣言していました。

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めぞん一刻の場合、ある日突然吹っ切ったり、五代君と急激に接近するわけでもなく、こうやってゆっくりと段階を踏んで、それぞれが少しずつ変わっていくのが好きです。どこで気持ちが切り替わったのか、どこで完全に忘れることができたのか。その辺がぼやけているのですが、それがまた現実的で良いんです。現実は別に「これ」とハッキリわかるでき事があって、ここから気持ちが変わりましたなんて境目はあまりないですからね。

 

惣一郎さんの死因

今回は、惣一郎さんが亡くなったことを響子さんが知る瞬間の様子が描かれていました。読んでいた当時、これは結構衝撃でした。惣一郎さんが亡くなって悲しむ響子さんの回想はあったのですが、まさかここまで「その瞬間」の描写をするとは…。特に惣一郎さんの思い出話では最近、木訥で冴えないとの面白要素が強い物が多かったので衝撃でした。

 

めぞん一刻は惣一郎さんの顔や、響子さんが五代君をいつ好きになったのかを明示していなかったり、いくつか「あれはどうなんだろうね」と話の種になる部分があるのですが、この惣一郎さん死亡を知らせる描写もそのひとつで、ファンの間では惣一郎さんの死因は何なのだろうと議論の的となる事柄です。そこで私なりに惣一郎さんの死因を探ってみたいと思います。

 

まず初めに確定なのは、「突然死であること」です。それは響子さんや音無家の反応を見れば明らかです。何故なのかは死因を探りながらこの後書いていきます。

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ここからは消去法で推察していきたいと思います。とは言っても、あくまでいちファンの推察であり、おそらく作者の高橋留美子さん自身も、明確にコレと惣一郎さんの死因を考えていたわけでは無いと思います。あくまでファンの遊びですので、細かいところを突いて反論しようと思えばできると思いますが、そこは温かい目で見て頂ければ幸いです。

 

事故死説

まず事故死説から潰していきましょう。

 

第2巻第26話「家族の焦燥」の響子さんのお父さんのセリフより。

 

 

響子さんの父「現に惣一郎はあっというまに死んじまったじゃないか。もっとイキのいい若いもんを選べばよかったのに。」

 

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これは事故で死んだ人間に対するセリフでは無いでしょう。事故で死んだ人間に対して、生きが良いも悪いも無いですからね。どう考えても事故で死んだ人間に対するセリフとしてはおかしく、そして成り立ちません。なので事故死説は却下。

 

自殺説

では考えたくはありませんが自殺説はどうでしょう。これも潰しましょう。

 

まず根本的に、惣一郎さんが自殺という死に方ならば、惣一郎さんの思い出を語る音無家や、響子さんの回想は全く違った物になるはずです。物語りそのものが、もっと暗く、陰鬱で、そしてそれを克服するエピソードもあったはずです。また響子さんとの惣一郎さんとの決別の仕方もまるで違った物になっていたでしょう。

 

~第8巻第76話「闇の中の顔」の音無家の会話より~

 

 

郁子ちゃんの母(惣一郎さんの姉)「おとうさん、惣一郎ってそんなにすばらしい人だった?」

音無老人(惣一郎の父)「いやー、響子さんがそう言うんなら…」

音無響子「(ミもフタもない一家ねー。)」

 

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この会話、このノリ、この空気。これはどう考えても自殺者を語るものではないでしょう。また、惣一郎さんの性格も自殺とは無縁であることがわかります。

 

~第10巻第100話「桜迷路」の音無家の会話より~

 

音無老人(惣一郎の父)「もっとも惣一郎の場合、無職だからっておちこんでなかったがな。」

郁子ちゃんの母(惣一郎さんの姉)「ほーんと家族(わたしたち)の方がおろおろしちゃってねえ。」

~中略~

音無老人(惣一郎の父)「食った食った。あれは全然悩んでなかったな。」

郁子ちゃんの母(惣一郎さんの姉)「あらおとうさん、惣一郎はね、どんなに悩んでても、食欲だけは影響のない子だったんですよ。」

音無響子「(えらい言われようね。)」

 

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このような家族の惣一郎さん評からも、自殺とは無縁の性格だったことがわかります。そしてやはりこの空気は自殺した家族を語る物ではないでしょう。と言うことなので自殺説も却下です。ちなみに、殺人被害者説も一応ここで却下しておきます。これも殺されると言う極端に不幸な死に方を語る物ではありませんからね。

 

病死説

となると残るは病死ですね。消去法で考えた場合、突然の病死しか残りません。あくまで推察でしかないのですが、ほぼ間違いなく突然死であり病死です。

 

では突然死と病死の両方に合致する病気とは何でしょう。突然死のわけけですから、事前に病名がわかっての闘病がある癌やエイズではありません。そこで突然死の中で最も多い死因はなにかを調べてみました。厚生労働省の死因の統計が記載されたホームページを見ると、惣一郎さんの年代である30代の死因第4位に心疾患、第5位に脳血管疾患となっております。3位までは突然死の病死ではないので除外です。

 

 

簡単に言えば、心疾患は心臓発作(心筋梗塞)、脳血管疾患は脳梗塞(脳卒中)です。と言うことで、惣一郎さんの死因は心筋梗塞か脳梗塞と推察します。ご納得頂けたでしょうか。

 

今回ものちの対比となる話

今回のエピソードは、ここから時間では2年後の惣一郎さん6周忌、コミックの単行本では第12巻の第127話「草葉の陰から」に繋がる話です。

 

惣一郎さんのお墓の後ろで、響子さんのお墓参りの様子を窺う五代君ですが、これはのちの「草葉の陰から」でも全く同じ構図です。今回はお墓の前で惣一郎さんに心の中で語りかけ、そして響子さんは立ち去りました。のちの「草葉の陰」では、響子さんが惣一郎さんに心の中で語りかけるのは同じなのですが、その後五代君を叱咤激励します。今回は惣一郎さんだけしか見えなかった響子さんですが、2年後には五代君もこの響子さんと惣一郎さんの間に割り込んでいます。

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何回か書いていますが、このめぞん一刻は、このように前の話と対比として成り立っているエピソードが多いです。響子さんの心の変遷や、関係性の発展をわかりやすく見せるために非常に効果的です。漫画の中の世界も現実と同じように時間が進むのも理由のひとつです。今回の年忌のような年中行事は何回も繰り返されるので、繰り返し、対比のエピソードはやりやすいのでしょう。

 

総評

今回は響子さんが惣一郎さんを忘れていく自分に気付き、惣一郎さんにある程度の別れを告げる回でした。惣一郎さんに操を立てていますとハッキリ言っていた最初の頃とは随分変わりました。これが突然変わったのなら色々突っ込みどころもあるのですが、ここまでくるのに4年ですららね。ゆっくりと、そしてやっとここまで来ました。それをめぞん一刻と全く同じ時間経過で読者の私たちは見ているので感無量でもあります。

 

響子さんは本心を五代君にも三鷹さんにも、それどころか両親にすら言わないので、この惣一郎さんのお墓参りは、響子さんの心の内がわかる貴重な機会です。惣一郎さんのお墓参りの話だけを繋げて読むだけで、響子さんの心の移り変わりが良く見て取れます。

 

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