永遠に語り継がれるラブコメ「めぞん一刻/高橋留美子」レビュー 5/5 (2)

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ラブコメの金字塔

私の中ではラブコメ漫画と言えば真っ先に思い付くのがこのめぞん一刻です。それはもう間髪入れずにこれです。

 

連載時には読んでいませんでしたし、アニメ放送時も見ていませんでした。完結してだいぶたってからアニメや漫画にはまり、先に漫画を読んだのですが、その面白さと言ったらもう…。めぞん一刻が完結してもう25年近くたちますが、未だにこれを超えるアニメ、漫画には出会っていません。

 

漫画とアニメの全話レビューを投稿しているので、よろしければご覧ください。

 

画力の進化

初めて漫画を読んだときは、当時にしてみても結構絵柄がきついなと思った記憶があります。今見ても響子さん登場シーンなんてかなりケバイですからね。しかしどんどん絵が上手くなっていくのが、見ているこちらにもわかりました。中盤から終盤に掛けては、もう高橋留美子さんの絵柄として完成した域に入っています。私は高橋留美子さんの作品の中では、この時期の絵柄が一番見やすくて好きです。

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アニメの方は作画監督によって物凄く絵柄にばらつきがあります。スカパー!の日テレ+で毎日放送していたのでそれを見ていたのですが、今まで作画監督なんて気にして見たことはなかったのですが、作画監督によって本当に違いがあってびっくりしました。

 

あるときは漫画に実に忠実な絵だったり、あるときはやたら目が大きい可愛い絵だったり、またあるときは目が小さく劇場版のような絵だったり。今のアニメは誰が作画監督でも絵柄は統一されていますもんね。これはこれで今見ると味があって面白かったです。

 

構成の上手さと軌道修正

めぞん一刻は最初、浪人生と未亡人のドタバタコメディだったんですよね。最初の頃の作風を見ると、とてもじゃないですが、こんな大感動物になるなんて予想もできません。ただ高橋留美子さん自身も語っているように、かなり初期の頃から、あのお墓でのシーンは構想にあったらしく、そこを目指して描いていたらしいです。

 

最初の頃は、お祭りのような楽しい毎日がいつまでも続くようなドタバタコメディでした。この頃の話も当然好きです。本当に楽しそうな日常の話があって、毎回大抵一話でちゃんとオチが付きますからね。起承転結をきっちり一話で終わらせられるというのは凄いことです。

 

中盤は八神登場の辺りからですね。それまでお祭りのような楽しい日常が永遠に続くような話から、八神の登場で一気に話が動きました。

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特にドタバタコメディのループだと、五代君と響子さんの仲が少し進展したと思ったら、また次の話ではリセットされるという繰り返しなので、ラブコメとして完結を目指すなら、二人の関係を劇的に推し進めるキャラが必要だったんですよね。

 

八神登場でそれまで全く進まなかった五代君と響子さんの仲が一気に進展したので、八神というキャラ、八神が引っかき回す話は、めぞん一刻では物凄く重要です。ちなみに私は八神というキャラが大好きです。もしかしたら響子さんより…。

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こういったヒロインのライバルキャラって、追っかけている男以外にも別の男に目が行ったり、嫌味な行動を取ったりして、嫌な部分が見えることがライバルキャラという設定上多いんです。

 

簡単に言うと、二人の仲を邪魔するお邪魔キャラでしかないわけですからね。ところがこの八神というキャラは、五代君以外には一切目もくれませんし、それどころか他の男の影も一切見えません。そしてなにより究極の一途で、本気で五代君のためにと思う行動ばかりです。それが結果的に五代君の迷惑になったり、一刻館を引っかき回すことが面白さに繋がっているんです。お邪魔キャラとしては清廉潔白すぎるかも知れませんけどね。

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そんなわけでお邪魔キャラであるはずの八神ですが、読者からすると一切憎む要素がないんです。五代君と響子さんも迷惑がってはいましたが、嫌ってはいませんでした。これが一番八神というキャラを端的に表していると思います。

 

後半の八神退場後は、もうドタバタコメディの要素はかなり薄くなり、ほとんどラブストーリー一直線でした。あとはどうやって五代君と響子さんがくっつくかだけでした。この辺になると前半のドタバタコメディが嘘のように作風が変わっています。

 

一回八神を挟んで、緩やかにドタバタコメディからシリアスなラブコメに変わっていく辺りは上手いです。あの前半のドタバタコメディから、後半のこのシリアスなラブコメに突然変わるのはどう考えても無理がありますからね。

 

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前半のドタバタコメディ。中盤のラブコメ。後半のラブストーリー。一粒で三度美味しい作品です。それでいて全てのパートで完成度が非常に高いです。アニメも漫画見ないと損します。

 

絶妙な会話のすれ違い

絶妙の会話のすれ違い、勘違いというのは、高橋留美子作品の特徴です。

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お互いの会話が噛み合わない面白さ、話が伝わらない面白さ、話がとんでもなく曲がって伝わる面白さ。この辺のテンポやセンスは読んで面白いだけではなく、本当に感心してしまいます。これが一番色濃く出ているのがこのめぞん一刻です。他にも高橋留美子作品は、うる星やつらやらんま1/2などありますが、めぞん一刻ほどこの会話の妙はありません。実はこの会話のすれ違い、勘違いが発揮されるエピソードが多いのが、アニメでは亡き者にされた、あの二階堂望のエピソード全般なんですよね。

 

元々二階堂は空気を読めない鈍いキャラということもあって、二階堂の勘違いで五代君や響子さん、一刻館を巻き込む面白いエピソードが一杯なんです。アニメで二階堂がいないことにされたのは非常に残念です。ただ確かにストーリーの中核ではないので、いなくても話に影響がないのは確かなんですよね…。

 

それにしてもただ会話ているだけ、会話の応酬4回5回で、いかにこの会話がおかしいかを表現するセンスとテンポの良さは、緻密な計算して出てくるとは思えないので、高橋留美子さんの天性の才能なんでしょうね。

 

魅力的な登場人物と使い捨てにしない素晴らしい姿勢

高橋留美子作品では個性的なキャラが多いのですが、その中でもめぞん一刻は魅力的な人物が非常に多いです。全員魅力的と言っても良いかもしれません。

 

SFドタバタコメディのうる星やつらや、同じような系統のらんま1/2では、思い付きでどんどんキャラを出せるのですが、前半こそドタバタコメディとは言え、現実的な世界が舞台であり、ストーリーのある漫画なので、そうそう思い付きでキャラは出せませんから、一度出したキャラをちゃんと丁寧に描いて最後まで使い捨てにせず使ってくれました。そのお陰で、キャラのバックボーンが丁寧に描かれることが多く、思い入れのあるキャラになっていきました。

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一刻館の住人は五代君にしょっちゅう集ったり、弄ったりして困らせるのですが、憎めないキャラばかりでした。キャバレーへの集りはその例外で酷かったですが…。

 

長期連載物…と言うには15巻は微妙ですが、こういう漫画って結構登場人物を使い捨てにしちゃうんですよね。途中で結構印象的な活躍をしたキャラも、最後はまるでいなかったかのように扱われたりするのも珍しくありません。しかしこのめぞん一刻は、ある程度の頻度出てきたキャラは、基本的に最後まできっちり登場させてくれているので、あのキャラはどうしたんだろうとモヤモヤせずに済んで有り難かったです。

 

アニメは漫画に忠実なようでかなり違う部分もある

私は長年めぞん一刻はアニメばかりを見ていて、漫画の方は長いこと読んでいなかったのですが、日テレ+での放送があったことを切っ掛けに、原作を10年以上ぶりに読んだのですが、結構アニメと漫画って違う部分あったんですね。

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アニメは印象的なエピソードや最後の方の重要なエピソードは、しっかり基本的に漫画通りやっているので、私の記憶の中ではアニメは漫画に忠実と思い込んでいました。二階堂がいないのはあまりにも大きいでき事なので、さすがに覚えていたのですが、それ以外にもかなり変更が加えられていました。

 

印象的なところだと、アニメはラブホテル前の告白ではなかったですし、ベッドインの失敗もありませんでしたし、その後二度目のチャレンジで成功という流れではなく、別の日に結ばれていました。この辺の流れって漫画は物凄くテンポ良くて理に叶っていたんですけどね。しかし放送時間が19時半である以上仕方の無い部分でしょうか。

 

八神退場部分は思いっきり変わっていましたね。

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漫画だと響子さんの辛い気持ちを理解した八神が、最後に響子さんを叱咤して退場、五代君を諦めるという、実に理に叶った綺麗な流れでしたが、アニメでは最後の登場シーンがキャバレーでした。バニー姿の八神が最後の登場という謎っぷり…。

 

それら以外にも、話の前後入れ替えはかなり頻繁に行われていました。漫画の初期の話がアニメでは後半に来ていたり、話の入れ替えがあるお陰で季節が変わってしまい、登場人物が変更されたり、漫画以上に頻繁にお婆ちゃんが一刻へ館来ていたり。この辺は大分改変が行われていました。

 

いまいち意味がわからないのは、一言二言の漫画にあった台詞をカットなんてことが本当に頻繁にありました。しかもそれが登場人物の心情を表す重要な台詞だったりするので、う~んと首を捻るようなこともありました。特に際どい台詞でもないのにカットしていましたので、本当にいまいち意図がわかりませんでした。とは言っても、重要なエピソードや、最後の方の終わりに向かっていく重要なエピソードは、基本的に漫画に忠実なのでその辺は良かったです。

 

アニメ版は就職浪人をしない

アニメの改変について話すとき、どうしてもこれは触れなければならないのですが、やはり最大の改変と言えば、五代君が就職浪人していないことでしょう。

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アニメの放送期間の関係なのか、はたまた19時半というファミリー向けの放送時間帯に就職浪人は悲惨すぎると思ったのか…。永遠の謎ですが、とにかくアニメは就職浪人しないんです!これは正直改悪と言って良いと思います。

 

五代君に不幸になって欲しいとかそんな事ではなく、就職浪人しなかったことにより、物語におかしなところがかなり出てきてしまったんです。五代君が今大学4年生だってことを頭の中から振り払えば良いのですが、やはりどうしても無理がある部分が…。

 

いくつか印象的な部分を挙げていくと、まず大きな流れとして、五代君は漫画だと就職浪人、要は無職(フリーター)なわけですから、社会の落伍者という五代君の追い詰められた思い、悩みが全くなくなっているんです。好きな人を幸せにすることもできない。好きな人にこんな情けない姿を見せたくない、見せられない。そこから思わず付いてしまう見栄、嘘。そんな動機が一気に薄くなってしまっているんです。

 

アニメではいくら思い悩んでいるように見えても、結局はまだ大学4年生の社会に保護された学生でしかありません。五代君の心理状態、この心理状態から来る言動。この辺の動機付けが非常に曖昧になってしまっています。就職浪人の五代君の言動と、大学4年生の五代君の言動。この差は非常に大きいです。

 

五代君と三鷹さんが決闘寸前まで行き、響子さんに将来のことを厳しく叱責され、雨の中ビンタされた印象的なエピソードでも、アニメでは「大学の卒業試験」になってしまっています。

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大学の卒業試験がとてつもなく難関であり、人生を決める大きな大きな試験という位置付け…。大事ではありますがそこまででは…。

 

本来の漫画だと、これは就職に直結する保母試験なので、無職の五代君にとっては、無職から抜け出せる唯一のチャンスであり、響子さんと結ばれるための重要な試験であり、これに落ちたらもう響子さんに顔向けできずバッドエンド一直線と言う、背水の陣という言葉でも生ぬるいくらいの、本当に人生を賭けた試験だったんですよね。それがアニメでは随分軽くなってしまいました。

 

これらの他にも、八神パパから紹介して貰った会社が潰れて就職浪人が決定するエピソード。保育園をクビになるエピソード。同僚だった保母さん(原作では黒木さん)が寿退社するので、偶然できた空きに上手く就職できたエピソード。まだまだありますが、この辺の悲喜交々、五代君の感情、立場、そこから来る言動、 切なさ。それら全てが五代君が就職浪人ではなく、大学4年生という立場になってしまったことで、一様に軽くなってしまいました。

 

アニメ制作にはアニメ制作の事情があったでしょうから仕方の無いことなのですが、ここは五代君を就職浪人させて欲しかったです。

 

完璧すぎる終わり方

めぞん一刻の何が好きかひとつだけ答えろと言われたら、私は「終わり方」と答えます。

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アニメや漫画に限らず、映画でもドラマでもよくあるパターンなのですが、「このあとのことは皆さんのご想像にお任せします」的な、投げっぱなしの終わり方をする話ってよくあります。私は基本的にこのやり方は好きではありません。始まったらちゃんと終わって欲しいんです。

 

めぞん一刻はこういった「このあとのことは皆さんのご想像にお任せします」とは完璧に真逆の終わり方で、なにからなにまで完全に決着を付けて終わらせ、その描写もキッチリ読者に提示して終わらせてくれました。

 

五代君と響子さんの決着は勿論、その後の三鷹さん、こずえちゃん、八神、朱美さん、二階堂(アニメではなし)。アニメでは曖昧ですが、黒木さんも結婚して終わりました。ここまで登場人物のその後をフォローして終わったアニメ、漫画はなかなか記憶にありません。

 

一部例外(不幸そうということではなく、笑える終わり方という意味で)はありますが、みんな幸せそうですし最高の終わり方でした。終わりよければ全てよしということわざがあるように、ここまで綺麗に、みんな幸せに大団円で終わってくれると、見ているこっちも幸せになってきます。見終わった後にここまで幸せになる物語は、アニメや漫画というジャンルの枠を取り払ってもそうそう出会えません。見終わって幸せになれるアニメ、漫画。それがめぞん一刻です。

 

こんな人にお勧め

  • ラブコメ好きな人
  • アニメ好きな人
  • 漫画好きな人
  • 高橋留美子作品が好きな人
  • 本当にそんなに面白いのかと疑問に思っている人
  • 全員

 

永遠に語り継がれる不朽の名作

この作品はアニメも漫画も永遠に語り継いで欲しい、語り継がれるべき作品だと思います。贔屓目無しにこれ以上のラブコメアニメ、漫画は見たことがありません。こういった思春期に読んだり見たりしたものは、思い出補正が入り、本来以上に高評価にしてしまうものですが、これは思い出補正抜きでも面白いですし人に勧めたいです。

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私は初めてめぞん一刻の漫画を読んだとき、最後の方はあまりにも面白すぎて、漫画の世界に入り込みすぎて、このとてつもなく面白い漫画が終わってしまうのが嫌で、わざとゆっくり読んだり、一話読んだら30分くらい休憩を入れたりして、物語が終わらないようにしていました。今まで数多くの漫画を読んできましたが、こんなことをした漫画はめぞん一刻だけです。大袈裟ではなく、これを知らないまま死ぬのは非常に勿体ないです。

 

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