今回レビューするのは、おおのじゅんじさんの漫画『機動戦士ガンダム THE ORIGIN MSD ククルス・ドアンの島』です。
いつものガンダムの1年戦争の隙間物語です。隙間を埋めすぎて後付けが多すぎて、整合性が合わなくなることも多いジャンルですがこれは果たして…。
それでは早速レビューを書いていきたいと思います。
未読の人が知らない方が良いネタバレについては、このようにオレンジ色のマーカーで、ネタバレの始まりと終わりを注意します。重要なことを強調する黄色のマーカーとは別なのでご注意ください。
目次
あらすじ
機動戦士ガンダム THE ORIGIN初の公式外伝コミック!!
宇宙世紀0079…。激化する1年戦争の最中、戦う事を放棄し、軍から脱走した男「ククルス・ドアン」。ファーストガンダムより登場するも、未だ語られることのなかった彼の過去が今、明らかに!!
長所と短所
- ○絵がオリジンとほぼ同じ
- ○オリジンより読みやすい
- ○ククルス・ドアンの以前の話が分かる
- △後付けストーリーなので所々違和感もある
感想
○絵がオリジンとほぼ同じ
1stガンダムのキャラクターデザインを担当していた安彦良和さんが新たに漫画で描いた、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』が数年前に完結しましたが、これはそのオリジンの更にスピンオフとなります。オリジン自体1stガンダムのスピンオフと言うかリブートなのですが、さらにそのスピンオフなので、スピンオフのスピンオフみたいな…。孫請けみたいな立ち位置でしょうか。
スピンオフ漫画は元の絵柄に寄せるか、逆に割り切って全く別の絵柄にするかの2種類あります。前者はこのブログでも紹介したことのある『今日からCITY HUNTER』や『DRAGON BALL外伝 転生したらヤムチャだった件』などです。
後者は『GATE 自衛隊、斯く戦えり』のスピンオフなど枚挙に暇がありません。
そして、この『機動戦士ガンダム THE ORIGIN MSD ククルス・ドアンの島』は前者です。オリジン作者の安彦良和さんと見分けが付かないほど絵柄が同じで、なおかつコマ割り、セリフの独特な吹き出しまで一緒です。「あれ?本当に作者は違う人だよな?」と調べてしまいました。
絵柄もコマ割りも吹き出しもなにからなにまで安彦良和さんそっくりなので、オリジンが好きだった方は違和感なくスンナリ読めるはず。
○オリジンより読みやすい
読んでいて感じたのは「オリジンよりなんか読みやすいな…」と言うこと。何故かと考えると、このククルス・ドアンの島は話があっちこっちに複数飛ばないからだとの結論に達しました。
オリジンの場合、その章によってシャアが主人公だったりアムロが主人公だったり、はたまたセイラが主人公だったり、主人公自体コロコロ変わります。ガンダムは魅力的なキャラが多いので、あっちもこっちも掘り下げようと思うとこのスタイルになってしまうのでしょう。
さらに複雑なのは時代も行ったり来たり頻繁にすること。過去の話、回想、現代の話など、前述したフィーチャーする登場人物の入れ替えと、時代の行ったり来たりの合体で、今はなにをやっているのか把握しづらいこともありました。
一方、このククルス・ドアンの島はと言うと、ククルス・ドアンとその部隊が主人公なので、入れ替わってもこの2通りです。また、時代もたくさんあるわけではなく、現在と過去の2通りのみです。この組み合わせで話が進行するので、オリジンより腰を落ち着けて物語を読めます。ただ、それでも他の漫画に比べるとフィーチャーされる人物や時代が行き来するのでやや複雑です。
普通の漫画に比べると話の展開が複雑ではあるのですが、時代が過去になったり現在に戻ったりすると、わかりやすくそれを表現するシーンが入るので、それほど混乱はしないと思います。過去の回想から戻ると、隊員の一人が空を見上げて『あの頃の隊長は何を考えていたんだろう…』なんて感じです。
○ククルス・ドアンの以前の話が分かる
アニメではたった1話しかなかったククルス・ドアンの話ですが、異質なのでファンの間も強烈に記憶が残っている方も多いはず。それに加えて劇場版では完全にカットされているので、そのことも話題になったり、逆にそれでレア感が出たりもしています。
ククルス・ドアンは軍の『子供も殺せ』との命令に背いて脱走し、その時の子供達を引き取って無人島でひっそり暮らしていました。非常に魅力的な背景です。これは物語を作りやすいですよね。そのククルス・ドアンがどうやって逃亡したのか、逃亡する前はなにをしていたのか…などが語られる漫画です。
ちなみに、ククルス・ドアンは開戦前は宇宙でテストパイロット部隊の隊長でした。コロニーでMSのテストパイロットをしていて、戦争とは無縁のはずだったのですが、開戦直前から戦いに狩り出され…と言うお話。
話が始まった時は既にククルス・ドアンは脱走しています。そして、残った隊員達の話が現代で進み、その合間に『あのとき隊長は…』と思い出します。こうやって思い出話の中でククルス・ドアンの脱走の様子を描き、そしてアニメのエピソードである『ククルス・ドアンの島』と繋がるのでしょう。
最近はこういったアニメ化されていない漫画ですらプラモ化するので、この漫画に出てきたMSもプラモ化するかもしれないですね。そして、話が面白いので買ってしまいそう…。
△後付けストーリーなので所々違和感もある
これはもういつものことなのですが、ガンダムの後付けは矛盾が出やすいです。と、言うのも、ガンダムはこれまでの40年で何十作も作られてきました。その中で新しいMS、デザイン、歴史、キャラなど、色々な設定出てきました。過去の話を作ると言っても、これらを忘れることはできません。そうすると、どうしてもガンダムの『その後の歴史』に引っ張られてしまい、いつの間にかオーバースペックのMSが出たり、その話はおかしいのでは…なんてことが出てきます。
矛盾で最も多いのはオーパーツで、MS回りのデザインと性能です。ガンダムができた当初、MSは貴重でジオンしか開発できておらず、連邦はオデッサ作戦でジムが投入されるまでほぼありませんでした。ところが、後付けガンダムでは至る所に高性能MSがあったことに…。
このククルス・ドアンの島も開発中のテストされるMSだったり、隊員達が乗るザクそのものが、明らかに現代のガンダムのデザインで無茶苦茶格好良いです。MSが格好良いことはマイナスではないのですが、それが本来のガンダムと整合性を保っているかと言えば保っていないんです。
総評
安彦良和さんのオリジンが好きだった方にはお勧めです。オリジンと絵柄からなにまでそっくりと言うか、見分けが付かないくらい同じなので違和感なく読めます。
オリジン自体各キャラを掘り下げるリブートでした。ククルス・ドアンの島はククルス・ドアンをフィーチャーしたオリジンなので、スピンオフと言うより、オリジンの続きと捉えても良いのかもしれません。
こんな人にお勧め
- 1stガンダムが好きな火と
- 安彦良和のオリジンが好きな人
- ガンダムの1年戦争の隙間物語が好きな人
- ククルス・ドアンの話を知りたい人
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