今回レビューするのは、木内一雅さん原作、渡辺潤さん漫画の『代紋TAKE2』です。
たまたまネットを見ていたら、この代紋TAKE2がタイムスリップ物だとの情報を目にしました。タイムスリップ物は大好きなので、全62巻との長さは読み切れるか不安だったのですが、先日初めて読破しました。かなり破天荒な話で、終わり方も賛否両論あるようですが…。
それでは早速レビューを書いていきたいと思います。
ちなみに、未読の人が知らない方が良いネタバレについては、このようにオレンジ色のマーカーで、ネタバレの始まりと終わりを注意します。重要なことを強調する黄色のマーカーとは別なのでご注意ください。
目次
あらすじ
1979年、新宿。暴力団海江田組組員・阿久津丈二は、大学の応援団員たちとの喧嘩に負け、泣きながら詫びを入れていた。この事件以降、丈二の人生は何をやっても上手くいかなくなり、10年後の1989年、弟分に鉄砲玉を命じられ、逃げる途中で自滅し惨めに生涯を閉じた。
しかし丈二が次に目覚めた瞬間、そこは1979年の新宿の、自分の転落のきっかけとなった大学生との喧嘩の場面だった。10年分の記憶と人生経験を積んだ丈二は、気迫と知恵で大学生たちを撃退。そして金の代紋をつけて街をのし歩いてやると胸に誓い、新しい人生をやり直し始める。
長所と短所
- ◎タイムスリップ物のヤクザ漫画がユニーク
- ◎成功の階段を上っていくサクセスストーリーが味わえる
- ○ヤクザの内部事情などの描写が緻密
- ○口八丁手八丁で相手をやり込めていくところが爽快
- △意外とタイムスリップ要素は少ない
- ×最終章はもはや別漫画
- ×終わり方が禁じ手
感想
まさかのタイムスリップヤクザストーリー
私はタイムスリップ物が大好きです。
ちなみに、一般的にタイムトラベルとは、『体ごと時を超越すること』です。代表的な物としては、洋画の『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズでしょうか。
タイムリープとは、『心や記憶が時を超越すること』です。代表的な物だと、洋画で『バタフライ・エフェクト』。邦画でもありましたが、アニメだと『時をかける少女』。アニメ単体だと『STEINS;GATE』あたりでしょうか。
タイムスリップとは、『タイムトラベル、タイムリープのどちらとも取れる』表現です。
どれもこれも名作ですよね。タイムスリップ物は色々な話の展開ができますし、終わり方はお洒落にしたりしんみりさせたり涙を誘ったり、色々できるので記憶にも残りやすいのでしょう。そして、なんとこのヤクザ漫画の代紋TAKE2も、まさかのタイムスリップ物だったんです。
漫画は昔から大好きなので、代紋TAKE2の名前は知っていました。ヤクザ漫画だということも知っていました。ただ、そこで情報は止まっていて、まさかタイムスリップ物だとは、つい先日まで知りませんでした。前述の言葉の意味で言うと、心が過去に飛ぶのでタイムリープ物ですね。『時をかける少女』や『STEINS;GATE』と同じジャンルです。ただし、タイムリープは最初に10年戻った1度きりで、その後は起こりません。
大まかなストーリーとしては、うだつの上がらない30過ぎのヤクザが、鉄砲玉になって惨めな死を迎え、その激しい後悔から突然10年前にタイムリープしてしまうという物。そして、もう一度ヤクザ人生をやり直し、今度はヤクザ界の頂点を目指すという流れです。
いわゆる人生やり直しのタイムリープですね。これは誰もが1度は夢見たことがあるのではないでしょうか。今の知識のまま過去に戻って無双したい。未来の情報を知っているが故の美味しさを味わいたい。人生で失敗した選択肢をやり直したい。この手の願望は誰にでもあると思いますが、当然そんなことはできません。なので、このような人生やり直し物とのジャンルが長く一定の勢力を占める理由でしょうね。
しかし、タイムリープならではの有利さが出るシーンは意外と少ないです。未来の競馬の情報を知っているから、そこで大穴を当てまくって大金持ちになったり、成長企業を知っていて株を買って大儲け…なんてこともほぼなく、当初想像していたよりはタイムリープ要素が少なかったです。
とは言え、最初の頃は知るはずもない親分達の名前を皆知っていて感心されたり、たまたま覚えていた競馬で大金を当てたりもありました。
話が進むにつれ、このようなタイムリーパーならではの話は少なくなり、ヤクザ世界のでのし上がりに重点が置かれるようになりました。なので、タイムリープ要素メインの漫画だと期待すると、中盤以降肩透かしを食らうかもしれません。しかし、その頃にはすっかりこの代紋TAKE2にはまっているでしょうし、タイムリープの話もたまには出てくるので問題はないと思います。
何故タイムリーパーの有利さを生かせていないのかと言うと、きちんとその説明もあって、「10年前の今日に自分がなにをやっていたのかなんて覚えてないだろ。記憶なんでそんなもん。だからいちいち競馬の当たりも覚えてない」とのことでした。
説得力はありますよね。例えば私も10年前のことを思い返すと、自分が誰と何をして遊んでいたのか思い出せませんし、好きなサッカーですらJリーグの優勝チームがあやふやです。記憶なんてそんなものなのでしょうね。
ヤクザの階段を上り詰めていくサクセスストーリー
代紋TAKE2はかなりヤクザの世界が詳しく描かれています。なんとなくドンパチやったとか、どこどこと抗争しましたなんて大まかな話ではなく、誰と誰が盃を交わしたから兄弟で、あっちはこう盃を交わしたから、立場的にはどうたらこうたら。シマのしのぎはなにが成されており、そこではどういう決まりがあるのかなどなど、とにかくヤクザの内部事情が凄く細かく詳しく描かれています。
ゲームの『龍が如く』も大好きですが、ヤクザ内部の権力争いや立場の複雑さ、内部事情の緻密さはこのレベルではありません。そして、この代紋TAKE2は、こんな超リアルなヤクザ世界の中で、ただのチンピラだった阿久津丈二がどんどん出世していく話です。
スポーツ漫画でよくあるサクセスストーリーと同じ話の流れと高揚感があります。一番分かりやすい例えとしてはボクシング漫画ですね。ただの素人がボクシングと出会い、徐々に実力を付けていき、ライバル達としのぎを削りながら成功の階段を駆け上がっていく。そして、やがては日本チャンピオン、世界チャンピオンへ…。この高揚感と達成感はたまりませんよね。これと同じ感覚がある漫画です。それがヤクザ漫画であるのですから実にユニークです。
トントン拍子に成功の階段を上がっていくわけではなく、一旦成功してはちゃぶ台をひっくり返し、また組を持たないチンピラに自ら戻ったりと、この辺は長期連載させるために素直に登ってはいきません。初期から中盤にかけては多少焦れったくもあるのですが、それでも周りのヤクザを口八丁手八丁でやり込めていく様は爽快です。
ただ、口八丁が多すぎるかな…とも思うことがあります。ヤクザなのですが、結局一休さんのような屁理屈で相手に反論できないようにする…とのパターンが多いです。じゃあ逆に暴力だけでのし上がるのが良いのかと言えばそれも困るんですけどね。
個人的に1番面白かったのは白浜一家の話です。たった数人の潰れかけだった千葉の白浜一家組長に収まった阿久津丈二が、あれよあれよと言う間に千葉を統一していく様は快感でした。また、逆に最終章以外でだれてしまったのは刑務所編です。ヤクザ物なので、全く捕まらないというのも変です。なので、どこかで刑務所編を挟むのは必然だったのでしょうが、ヤクザの抗争やのし上がりから外れてしまったので、いまいち面白みを見出せませんした。
ゴリゴリのヤクザ物
前述もしましたが、代紋TAKE2はヤクザの内部事情などの描き方が、他のヤクザ物に比べて恐ろしく緻密です。主人公は人を殺さない、良い人なんてヤクザ物もありますよね。主人公は読者が投影するものなので、汚したくないとの思いと、投影しやすいようにとのことからでしょう。
しかし、この代紋TAKE2の主人公・阿久津丈二は、作中何人も殺します。それで刑務所にも入ります。その後も殺して罪に問われないこともあります。普通にバンバン殺すんです。この辺り、『ヤクザをヒーローにするな』とのヤクザ嫌いも一定数いるので、そのような方には合わないと思います。
【差し替え】
最終章はヤクザ物ではない
オチに関する致命的なネタバレは含まれていませんが、未読の方は次のオレンジマーカーまでは読まない方が良いと思います。
さて、問題の最終章ですが…。これもうヤクザ漫画じゃないですよね。私はヤクザ漫画を読んでいたはずなのに、いつのまにか東京を壊滅させるテロリストの話になっていて、「なんじゃこりゃ」と思いました。
ヤクザの話はほっぽり出して、5人の傭兵(テロリスト)がメインとなり、過去の戦場での思い出話や、東京を壊滅させて喜んでいたり…。挙げ句の果てには『北斗の拳』のような世界の東京になってしまい…。「これ代紋TAKE2だよな…」と何度思った事かわかりません。
さらには、武器の詳しい説明や解説が延々とあったり、ハッキリ言ってウンザリしました。そういうのが面白くて代紋TAKE2を読んでいたわけではないのですが、作者はなにを考えてこんなことにしたのでしょうか。理解できません。
テロリストにスポットが当たったのもつまらなかったのですが、何より阿久津丈二が単なる嫌な奴に成り下がってしまったのが1番納得いきませんでした。これまで阿久津丈二はヤクザらしからぬその人望で若い者を増やし、のし上がってきたのに、その人格が壊れてしまうと、もはや何の魅力もないキャラに…。
最愛の人を殺されて心が壊れたのはわかりますが、理不尽なことで若い者を殴る蹴る、銃を突きつける、簡単に破門を口にする。こんなのは最低でイライラしてしまいました。そういうキャラだったら代紋TAKE2を読んでませんよ。まあ、主人公が1度闇落ちして、また戻ってくるなんてのは漫画あるあるではあるのですが、阿久津丈二の闇落ちが長いんです。テロリスト、阿久津丈二の闇落ちが10巻くらいありました。もうちょっと短くまとめて欲しかったです。
ネタバレはここまでです。
最後は禁じ手でしょ
ここからは完全にオチの関するネタバレです。未読な方は読まない方が良いです。
オチは…禁じ手でしょこれ。これはないよ…いくらなんでも。夢オチと同レベルの禁じ手だと思いますよこれ。やっちゃ駄目ですって。しかも15年続いた62巻の長期連載物でこれは本当に駄目。ガッカリしました。
これまでの物語は子供が遊んでいたゲームの世界の話であって、阿久津丈二もゲームのキャラの1人だったって…そりゃあないよ…。まさかって言いたいのはこっちだよ…。
そりゃあね、今まで物凄く面白かったのだから、それまでで十分お釣り来ますよ。中には「最後が酷くてもそれまで面白かったから良いじゃん」と言う方もいます。でもそれは違うと思うんです。『終わりよければ全て良し』って格言ありますよね。でも私はこの逆もあると思うんです。『終わり悪ければ全て駄目』って…。
終わり方が素晴らしいと、それまでやってきた物語もより光り輝いて余計に面白く、大事に感じます。これには大きな異論はないと思います。『めぞん一刻』なんて、漫画史に残る綺麗な終わり方をしたため、それまでの話も余計に素晴らしく感じられますし、なによりもう一度読み返そうという気になれます。実際私は年に1度は最初から最後まで通して読んでいます。前述したバック・トゥ・ザ・フューチャーやSTEINS;GATEもそうです。これらも何回も見ています。
しかし、終わり方が酷かった漫画は、例えそれまでの話が面白くても読み返す気にならないんです。何故なら酷い終わり方で後味悪いのが分かっているのですから。後味の悪い終わり方をしているのに、何時間も掛けて再度読み返す気になるでしょうか。私はなりません。ちなみに、後味の悪い終わり方というのは、バッドエンドって意味じゃないです。バッドエンドでも、表現は難しいのですが、良い終わり方の物もあります。
悪い終わり方の例だと『GANTZ』です。途中までは凄く面白かったのですが、この代紋TAKE2と同じく、最終章が無茶苦茶で、そして終わり方が全ての謎をほっぽり投げた酷い物で…。なので、読むとしても途中までで、最後まで読むことはありません。
このように、終わり方が酷い漫画だと、それまでの面白かったことまで全て色褪せてしまうと思っています。ガッカリ感が半端じゃないんです。
代紋TAKE2も最終章前までは凄まじく面白かったのに…。私が62巻もの長丁場を数日で読破してしまいましたからね。本来の私の生活スタイルと読むスピードだと、2週間は掛かるところだったのですが、面白すぎて数日で読んでしまうほどだったんです。それだけに、実は阿久津丈二やその他、皆がゲームの中のキャラだったんですというオチにはガッカリしました。
嫌な予感はしてたんです。50巻近くになってきたあたりから、設定だのリセットだのポツポツ出てきていましたし、何かに気付いた江原も、登場人物だの脇役だの言い出しましたから。しかし、まさか15年連載した物をゲームのキャラでしたオチにするとはなあ…。
ネタバレはここまでです。
総評
最終章までは間違いなく物凄く面白いです。タイムスリップ物が好きな方ははまると思います。私がヤクザ物を読んだり見たりしていないだけかもしれませんが、ここまで内部事情を事細かく描写した話は初めて見ました。ヤクザをヒーロー扱いする気は毛頭ありませんが、その点でも興味深かったです。
私の中で面白い漫画かどうかの基準として、『友人に勧められるかどうか』があります。この代紋TAKE2は間違いなく友人に勧められます。「ただし」と後に付け加えなければなりませんが…。友人には、「最後が酷いので、そこだけは覚悟しておいてね」と言います。それと同時に、「それまでは無茶苦茶面白いから」とも。本当にそんな漫画なんです。
特にはまる方としては、前述もしましたが、スポーツ物で成り上がりのサクセスストーリーが好きな方にはピッタリだと思います。
第1巻は1990年発行なので、もう28年前の漫画です。今更にも程がありますが、先日読破して面白かったので今回紹介させていただきました。しかし、最後が酷いので再読はしないかなあ…。
こんな人にお勧め
- ヤクザ物が好きな火人
- タイムスリップ物が好きな人
- サクセスストーリーが好きな人
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