目次
掲載情報
掲載雑誌
- ビックコミックスピリッツ 1987年4月13日号
アニメでは
時系列とでき事
- 1987年3月 五代裕作と音無響子、音無家へ挨拶へ行く
- 1987年3-4月 五代裕作、惣一郎さんをひっくるめて響子さんを愛することを誓う
この頃のでき事
- 4月1日 - 国鉄が分割・民営化され、JRグループ7社(北海道・東日本・東海・西日本・四国・九州・貨物)が発足。
- 4月4日 - 有明コロシアムが完成。
- 4月12日 - 中嶋悟が日本人初のフルタイムF1ドライバーとしてF1開幕戦でデビューする。
- 4月18日 - 大阪市営地下鉄御堂筋線の我孫子駅 - 中百舌鳥駅間が延伸開業し全通。
- 4月21日 - 花王が日本初のコンパクト洗剤「アタック」を発売。洗剤コンパクト化のきっかけとなる。
- 4月21日 - 三菱電機が掃除機「ダニパンチシリーズ」を発売。
あらすじ
結婚式まであと1週間と迫った日、五代君と響子さんは音無家へ挨拶に行きます。そして響子さんはケジメとして惣一郎さんの遺品を音無老人に返そうと決意。そんな響子さんを見た五代君は、結婚の報告と決意を惣一郎さんのお墓の前で誓い、それを偶然聞いていた響子さんは、この人に出会えて良かったと心底思うのでした。
みどころ
- 響子さんの惣一郎さんについてケジメを付けようとする決意
- 五代君のお墓の前での決意
はじめに
いやあ…これでラスト2話です…。どうジタバタしても嫌がっても泣き叫んでもどうにもなりません。めぞん一刻はあと2話で終わりです…。もう何十回と読んでいる漫画なのですが、最終回が近付くと毎回ドキドキしてしまい、終わらないでくれと無駄な願いをしてしまいます。もうセリフの子細までそらで言えるくらい読んでいるのに…です。他にも大好きな漫画、面白いと思う漫画はあるのですが、この気持ちになるのはこのめぞん一刻たった1作品だけです。私にとっては本当に特別な漫画で、多分死ぬときの走馬燈に、私の人生の一部として出てくるくらい大好きです。
14巻あたりから涙がぽろぽろ出てくる話があり、そして15巻になるともう涙なしでは読めません。今回も五代君のお墓前での決意、それに対する響子さんの反応と泣きっぱなしですよ…。でも恥ずかしくありません。これは泣いて当たり前の作品なんですから。
一刻館に住み続ける
五代君と響子さんは、結婚式1週間前に音無家へ挨拶に行っていましたが、これって珍しいですよね。前夫の父が所有するアパートの管理人をやらせてもらっている手前、繋がりがある以上再婚の報告に行くのは当たり前なのですが、死別とは言え別れてしまった前夫の家族とここまで濃密な繋がりと良好な関係があり、そして再婚を祝福してくれるなんて良い関係です。音無老人はこの後のセリフでもよくわかりますが、本当にめぞん一刻の聖人です。
前々回では千草家との決着を、前回では五代家との決着を、そして今回は音無家との決着を描きました。これで五代君と響子さんに関わる三家全てとの話は決着が付きました。何回も書いていますが、本当にこうやって一つ一つ丁寧に話を片付けるので、あの話はどうなったんだ的モヤモヤ感がゼロなんです。改めて細かい部分まで今回読み込んで気付いたのは、このように疑問や問題を一つ一つ片付ける丁寧さです。本当に細かい部分まで綺麗に決着を付けさせていて、やり残しが全くと言って良いほど無いんです。
そして響子さんは、結婚後も一刻館の管理人業務を続けさせてほしいと音無老人に頼み、音無老人も快諾。五代君は近くにアパートでも借りて引っ越そうと提案したそうですが、響子さんが引っ越し代だって馬鹿にならない、共働きの方がお金に余裕ができるとのことで却下されたみたいです。この関係性から見ても、やはりというかなんというか、完全に響子さんが主導権を握る、典型的な女房の尻に敷かれるタイプの関係みたいですね。
ここでは読者が常々疑問だったことも言及されており、郁子ちゃんの母(惣一郎さんの姉)が、「あんな環境で子供できるかしら。」と。そう、そこですよ。読者が心配していたことも。こういう読者が思うであろう疑問点まで高橋留美子さんはきっちり処理してくるんです。作者が描きたいことを描くだけの漫画もあるのですが、このめぞん一刻はきちんと読者の方も向いていて感心します。そしてこれに対する響子さんの反応は、ちょっと頬を赤らめて「できるわよ。」と。このリアクションは漫画的に可愛らしくて好きです。
2人の収入は?
さて、ここでちょっと閑話休題。響子さんは一刻館に住み続け、管理人業務も続けると言っていましたが、そうなるとこの2人の夫婦の収入はどうなるのでしょうか。
これはアニメ全話レビューの記事でも書いているのですが、五代君の保育士の年収を調べると、20歳から24歳の男性保育士の場合、平均月収が19万円、平均年収が256万円となっています。五代君が働き始めたときは1986年11月です。下記参照データとは約30年の開きがあるので参考までにということで。ただ、バブル以降は失われた20年と言われるように、この20年日本の給与所得額は変わっていないどころか、落ちている傾向にあるので、当時と比較してもそれほど開きはないと思われます。
そして響子さんの管理人業務での給料ですが、「マフ等あげます」の最初のコマからわかるように、家賃は月20,300円です。1階の間取りは2部屋なので、仮に2階の2倍としましょう。1階は一の瀬さん、二階堂の2部屋で81,200円。2階は四谷さん、五代君、朱美さんの3部屋で60,900円。合計で142,100円の家賃収入があることなります。響子さんの給料はこの半分として7,8万円とのところでしょうか。五代君と響子さんが結婚した後は、五代君の部屋が空き、二階堂が就職で出て行き、朱美さんが結婚で出て行ったので、家賃収入が合計60,900円へと激減。この半分が響子さんの収入になるとしたら3万円。お小遣い程度にしかならなくなってしまいます。ただ、管理人なので部屋代は0円でしょうから、収入がある以上に、家賃0円が魅力なのでしょう。
音無老人は地元の女子校の理事をしていたり、そこに息子を強引にねじ込んだりと、力のある家の様子。また、家自体も都内一戸建てで結構広そうでしたし、ボロいと言えど都内のアパート経営ですから、資産もあったわけで、もしかしたら一刻館は利益度外視の趣味やボランティアみたいな物だったのかもしれません。更に、管理人には短い期間だったとは言え、息子の妻で家族だった響子さんが就いているわけですから、家柄や状況を考えると、音無家が家賃収入のほとんどを響子さんへのサポートとして渡していても不思議ではありません。とは言っても、家賃収入の全部を渡していたとも考えづらいので、多く給料を貰っていたとしても、結婚前の一刻館が賑わっていた頃で10万円超、結婚後の入居者が少なくなった状態で5万円とのところでしょうか。女性の一人暮らしで家賃にお金が掛からない、そして派手な遊びもしない響子さんなら、給料10万円でも十分やっていけたでしょう。
これらを考えると、五代君の月収が約19万円。そして響子さんの管理人収入が3~5万円と推察します。とすると、2人の合計収入は22~24万円と言ったところでしょうか。決して楽な暮らしではないと思いますが、家賃に掛かるお金が0円なので十分やっていけると思います。
遂に惣一郎さんの顔が明らかに
今回、長年謎だった惣一郎さんの顔が明らかになりました。とは言っても、相変わらず読者には見せてくれず、五代君、そして一の瀬さんと朱美さんだけが見たわけですが…。
五代君は響子さんの母校、桜ヶ丘女子校で教育実習生をやっていたときや、音無家へ泊まったときなど、必死で惣一郎さんの顔を見ようと画策しても見られなかったのですが、その惣一郎さんの顔がわかる写真は、桜ヶ丘女子校でも音無家でも無く、五代君がいる一刻館の管理人室にあったんですね。さすがに五代君が惣一郎さんの顔を知らないまま一生を過ごす、またはそう読者が思ってしまうまま終わるのは、いくらなんでもスッキリしないですし不自然なので、ここで五代君が惣一郎さんの顔をきちんと見られたことは良かったです。
そしてこのことを切っ掛けに、響子さんは惣一郎さんの遺品を整理し、音無家へ返す決意をします。泣いている響子さんを見て、五代君はそこまでしなくてもと声を掛けますが、ケジメとして響子さんは結局遺品を音無家へ返したみたいですね。
その後、仕事へ行く五代君に響子さんは、「もうあなただけなの…」と言うのですが、五代君はどうもこの言葉にひっかかっている様子。これが後のお墓の前での決意表明に繋がります。
そして、惣一郎さんのお墓の前で五代君がする決意表目は涙無くしては読めません。
五代裕作
「正直言って、あなたがねたましいです…
遺品返したところで響子さん…絶対にあなたのことを忘れないと思う。
…忘れるとか…そんなんじゃないな…あなたはもう響子さんの心の一部なんだ…
だけどおれ、なんとかやっていきます。
初めて会った日から響子さんの中に、あなたがいて…そんな響子さんをおれは好きになった。
だから…あなたもひっくるめて、響子さんをもらいます。」
ここも短い間にクドくなく、五代君の気持ちや決意を端的にまとめていて素晴らしいです。めぞん一刻の言葉の魔力ですね。ここまで言葉に説得力がある漫画はそうは無いでしょう。派手な動きや大げさなリアクションで見せるのではなく言葉オンリーなんです。ある意味、漫画でありながら小説のような言葉の美しさ、叙情の魅力がある漫画です。
この言葉が出たのが、先ほどの響子さんの、「もうあなただけなの…」です。この言葉にひっかかった五代君は、そうだ惣一郎さんを忘れさせるとか無理なんだ、そこは頑張るところではないと思ったのでしょう。響子さんが無理して出した言葉だとわかったのでしょうね。
実際、大好きな人と結婚し、新婚1年足らずの突然死で死別なんて、いったいどう気持ちの整理を付ければ良いのか想像だにできません。嫌いになって別れたのなら気持ちに決着が付くので良いんですけどね。好きな人と好きな気持ちのまま死別するなんて、そのときも勿論辛いのは当たり前なのですが、その後の自分の人生をどうするのか、忘れていくのか、忘れて良いのか、好きな人ができた場合、その過去のことは自分の中でどうなるのか。経験者じゃなければ考えてもさっぱりどうなるのかわかりません。めぞん一刻初期はドタバタコメディで楽しく、そして中盤はラブコメでハラハラドキドキさせてくれた楽しい漫画なのですが、改めて響子さんの置かれた立場を現実の物として考えてみると、楽しいめぞん一刻の世界に隠れがちですが、物凄く重く、そして恐ろしいでき事なんです。
そして、この本来答えのない課題に対し、五代君の出した答えは、惣一郎さんも含めて響子さんを愛しますとのもの。これには感動しました。惣一郎さんを忘れてくれとか、忘れて欲しい、俺が忘れさせる、そう言った方向ではなく、響子さんの一部だから一緒に愛しますなんです。この五代君の結論と、この問題の着地点にはびっくりしました。
響子さんが今何を思っているのか、惣一郎さんのことはまだ思っているのか、もっと言えば他人の心の中は誰にもわからないわけで、本来解決しようのない問題で、こんな解決方法があったのかと感心しました。惣一郎さんを邪魔者として捉えたままだと、おそらくずっと五代君と響子さんは、どこか腹の探り合いが起きたり、そこから生まれる齟齬で喧嘩をしていたと思います。ところが惣一郎さんをひっくるめて響子さんを愛するとしたことで、この問題は解決してしまうんです。見方が少しだけ違うだけなんですけどね。五代君がどう思おうが、響子さんの中の惣一郎さんの立ち位置は変わらないわけです。なら五代君の見方、捉え方ひとつで物事は全て上手く回るんです。そして、これを偶然聞いていた響子さんは、「あなたに会えて、本当によかった。」と五代君に言うのですが、そりゃそうです。ここまで包容力のある人間なんてそうはいませんよ。
この遣り取りでは心の中で大拍手していましたよ。これ以上ない、惣一郎さんの決着の付け方でしょう。そして五代君と響子さんが本当に心の底からわかり合えた瞬間でした。そして、この五代君が出した答えは、三鷹さんや他の人では絶対に無理でした。
総評
さて、これで残りはラスト1話です。遂に残すは最終回のみ。
しかしこのめぞん一刻の物語は見事としか言い様がありません。初期のドタバタコメディからラブコメを挟み、そして最後は大人のしっとりとしたラブストーリーへと変貌を遂げました。この流れるような話の移り変わりも見事ですが、物事を一つ一つ解決していく丁寧さ、コンパクトにまとめられた言葉の魅力など、漫画のお手本のような作品だと思います。特にめぞん一刻のセリフって、コンパクトでテンポが良く、短くリズム良くまとめられているので、スラスラと読めて頭にすんなり入ってくるんですよね。この終盤はそんな言葉の魅力がいっぱいでした。
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