目次
あらすじ
大 正から昭和にかけての日本。戦争や大震災、世界恐慌による不景気により、世間は閉塞感に覆われていた。航空機の設計者である堀越二郎はイタリア人飛行機製 作者カプローニを尊敬し、いつか美しい飛行機を作り上げたいという野心を抱いていた。関東大震災のさなか汽車で出会った菜穂子とある日再会。二人は恋に落 ちるが、菜穂子が結核にかかってしまう。
微妙?
宮崎駿監督最後の映画「風立ちぬ」を観ました。
結 論から言うと「微妙」でした。個人的な感想を言えば、つまらなくはなかったです。かと言って面白いかと聞かれれば、面白いと自信を持っては言えません。な んと表現して良いのか…。この後に少し詳しく書いていきたいと思います。ちなみに話の核心に迫るネタバレの時は事前に予告してから書きます。
抽象的な映画
まず思ったのは、実に抽象的な映画だなと言うことです。
直 接的な表現や、わかりやすいストレートな描写は凄く少ないです。抽象的な描写や微妙な言葉の言い回し、前後の状況から、観ている人が「察して下さい」が全 編にわたって続きます。ただこれは、ちゃんと集中して観ている賢い中学生か、高校生以上ならまず問題ないレベルです。逆に言うと、ちゃんと観ていないと大 人でもわからないシーンがあるかと思います。それは表現が難解とか、観ている自分が察しが悪いと言うことではなく、ちゃんと観ていないからだと思います。
更に言えば、これは小学生以下の子供にはまず理解不能でしょう。察して下さいという抽象的なシーンがあるのは勿論ですが、主人公の堀越二郎とヒロインの菜穂子の恋愛話が後半は大きな比重を占めるので、そこも子供には厳しいかと思います。
また、夢の話と現実の話が、何の説明も無く連続して続くので、そこも多少混乱する、抽象的に見える原因かも知れません。
ちなみに当然ですが、堀越二郎は実在の人物なので、興味があったら堀越二郎についての本を読むと面白いかも知れません。
声優としての庵野秀明はどうだったのか
発表されたときには論争を呼んだ庵野秀明の声優起用ですが、一応観られるレベルにありました。と言うのも、ジブリ映画は 本業の声優以外を使うのはもはや伝統になっていて、木村拓哉の声優でも感じたのですが、どう考えても声に物凄いエフェクトを掛けているんです。専門的なこ とは分かりませんが、元の声が分からないくらいに弄っているのは間違いないと思います。そんな訳で、今回の庵野秀明も、元の声が分からないくらい弄ってい るので、聞けるか聞けないかで言えば聞けるんです。機械で聞けるように弄っている訳ですから。
声 優こそ最高でそれ以外は駄目。絶対に声優を使え!と言う気は毛頭無いのですが、そうまでして、本業の声優以外を無理して使う意味あるのかなと言うのは、 常々思っていました。しかしそこは大人の事情なんでしょうね。有名な俳優や突拍子もない人を声優にすると、話題性や興業に有利ですからね。
時間が飛びまくる
堀越二郎の 人生を、ダイジェストで紹介するドキュメンタリーのような作りなので、平気で3年、5年と時間(場面)が飛びます。この辺もどれくらい時間が経ったかとい う説明も、わかりやすい描写もないので、先ほど書いたように抽象的であり、子供が分かり辛い原因にもなっているのではないでしょうか。
一部論争を呼んだ戦争に関して
実に馬鹿馬鹿しくも下らない話ですが、某国はこの映画が零戦の設計者が主人公だと知ると、映画を観てもいないのに、戦争賛美だなんだといつものように文句を言って、それに釣られた日本のマスコミも、一部そんな報道をして論争になっていました。
宮崎駿監督が戦争賛美なんてしていないから、実際に観てくれと言っていましたが、観終わった私の感想もそのままです。
ま ず戦争シーンはまともに出てきません。零戦がアメリカ軍の戦闘機とドッグファイトなんてシーンも、どこかの都市を爆撃するシーンも、一つもありませんでし た。また、某国がいつも言ってくる文句の定番で、「被害者ぶるな」と言うフレーズもあるのですが、その様なシーンもありませんでした。
最後に東京が焼かれるシーンで、堀越二郎が呆然としているシーンくらいですかね。それも爆撃されるシーンも、逃げ惑う東京の人々のシーンも無く、遠目に街が焼かれているシーンだけでした。
そ もそも、その零戦が1機も帰ってこないとの設計者としての悲しそう台詞があったり、戦争のために飛行機を作っているんじゃないという台詞や、軍部に反抗す るシーンなんかもあって、寧ろどちらかと言えば反戦思想の映画だと思いますけどね。まあこう理屈を話ても、そういう人たちはヒステリックに、駄目だ駄目 だと言うだけなので、無駄なのは分かっていますけどね。
ジブリの中の立ち位置
映画の好みは個人差が如実に表れますし、単純に比較できる物では無いのですが、敢えてジブリ映画の中の順位付けをするとしたら、ポニョ、コクリコ坂、ゲド戦記、アリエッティよりは面白かったです。さすがにナウシカやラピュタ、魔女の宅急便は超えられませんでしたけどね。
物語がある話
最近のジブリ映画は、アリエッティ、コクリコ坂と、「何も起こらない映画」が続いていたので、取り敢えず「物語がある話」で良かったです。アリエッティなんて何も起こらないにも程があって、最後に「え?これで終わり?」と思わず口にしてしまいました。
今度のジブリ新作の「思い出のマーニー」は、アリエッティの監督であり、欧州の児童文学が原作なので、物凄くこの「何も起こらない話」の予感がしますが…。
最後も抽象的
ここからはネタバレになりますので、まだ観ていない人は読まないことをお勧めします。
最後のシーンは抽象的でしたね。堀越二郎とカプローニと菜穂子のシーンは、堀越二郎が死んだ後なのかなと思ったのですが、菜穂子が生きてと言っていたので、子供の頃から観ていた堀越二郎の夢なんでしょう。
菜穂子に関しては抽象的ではありますが、その前の、「美しいところだけ、好きな人に見てもらったのね…」と言われたシーン、山の療養所に帰っていったシーンに次いで、堀越二郎の夢の中で菜穂子が「生きて」と言って消えるシーンがあったので死んだんでしょうね。
ネタバレ終了です。
ちなみにここはどうしても抑えておきたいのですが、この作中に出てくる菜穂子は完全に架空の人物です。正確にはモデルがいるのですが、堀越二郎の奥さんとは全くの別人です。実際の堀越二郎は、全く別の(と言う言い方も変ですが…)方と結婚をして子供を儲け、幸せな家庭を築いたようです。勿論その奥さんは結核で亡くなってはいません。
堀越二郎の話をどこかで誰かとするときに、この映画の風立ちぬが史実だと勘違いして、余計な恥を掻かないように、ここは抑えておきましょう。
ジブリ版フォレスト・ガンプ?
この堀越二郎の半生をダイジェストのように、そしてドキュメンタリーのように駆け足で追っていく風立ちぬを見て、フォレスト・ガンプと言う映画を思い出しました。
このフォレスト・ガンプも、フォレスト・ガンプの半生をダイジェストで追っていくんですよね。これも非常に面白かったです。
こんな人にお勧め
- ジブリ映画が好きな人
- 宮崎駿が好きな人
やりたいことをやったのかな
1916年(大正5年)の堀越二郎の幼少時代から、日本敗戦の1945年(昭和20年)までの29年を、2時間のダイジェストで追っていく作りなので、時間が足りなかったように思います。TVアニメ向きかも知れないですね。
宮崎駿監督作品最後としては、インパクトがあったとは決して言えませんが、今までの子供向け映画から、ここまで方向転換して大人向けに、観客に理解力を求める映画を作ると言うことは、おそらく最後に自分のやりたいことをやったんでしょう。
音楽や絵(特に背景)は、相変わらず芸術レベルに美しく、ぬるぬる動くので、それだけでも観てて飽きないと思います。
思い出のマーニーにも色々アドバイスしに来ていたらしいので、まだまだ作品には関わってくる気配はしますが、本当にお疲れ様でした。そして今まで面白い映画をたくさん世に送り出してくれて有り難う御座いました。
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