目次
あらすじ
ダイナーのウェイトレス、スリムはある日、ミッチという親切な男に出会い、結婚する。スリムはウェイトレスを辞め、建設会社を経営する裕福なミッチとの幸せな結婚生活が始まる。やがて娘グレイシーが生まれ、3人で何不自由なく優雅に暮らしていた。だがグレイシーが5歳になった頃、ミッチは突然変貌し始めた。妻の主張や抗議は全てはねつけ、暴力で家族を従わせようとし、それを“愛”と称する支配欲の塊となったのだ。暴力に耐えかねたスリムは娘を連れ逃げ出すが、ミッチは彼女のどんな動きも把握し、執拗に追い詰める。迫りくる恐怖の“愛”から逃げ続けることも限界に達した彼女は、女として母として最後の力を振り絞り、ある決断を下す……。
公開
2002年/アメリカ
監督
- マイケル・アプテッド
出演者
- ジェニファー・ロペス
- ビリー・キャンベル
- テッサ・アレン
- ジュリエット・ルイス
- ダン・ファターマン
- ノア・ワイリー
- フレッド・ウォード
- ジャネット・キャロル
- ビル・コッブス
- クリストファー・マー
長所と短所
- ○どう見ても無茶苦茶な話なのに真面目な映画として世に出している
- ○妻の修行シーン
- ○妻vs夫の闘い
- △前半はごくごく普通
はじめに
今回レビューするのは、ジェニファー・ロペス主演の『イナフ』です。
最初に書いておきますが、この映画は話の展開が無茶苦茶です。起承転結の転でとんでもない方向に話が転がります。B級映画という枠では語りきれない映画で、馬鹿映画に属するものと言って良いでしょう。
**き しょう てん けつ【起承転結】(名)
①漢詩、ことに絶句の組み立て方。はじめの句〔=起句〕でおこし、次の句〔=承句〕で うけ、第三の句〔=転句〕で一転し、最後の句〔=結句〕で全体を むすぶ。
②〔物語などで〕はじまり・ひろがり・どんでん返し・むすびの構成。三省堂国語辞典 第七版 (C) Sanseido Co.,Ltd. 2014
以前も午後ローでこの映画を観て、笑うような方向を目指していない真面目な映画なのに、腹を抱えて笑った記憶があるのですが、先日また放送をしていたため、これは録画せねばと思い、知らない人には伝え、知っている人とは感想を共有したいと思い、今回はキーボードを叩くことを決意しました。
繰り返しになりますが、真面目な映画や質の高い映画が観たい、純粋な意味で面白い映画を観たい、B級映画や馬鹿映画なんて好きではないとの人には全く合わない映画です。あくまでB級映画として、馬鹿映画として斜めから見るととんでもなく面白いという、一般的な面白いとの意味では決してないので、この辺りは予めご了承ください。
それでは早速レビューを書いていきたいと思います。
放送内容
前半までは普通の離婚映画
このイナフは前半まではごく有り触れた離婚をテーマにした争い、葛藤、大変さ、そして異常な執着をする夫を描いた映画です。その異常な夫に追い詰められていく妻は一体どうするのか、どんな選択肢を選ぶのか…がメインテーマとなります。そう前半までは…ね。後半に追い詰められた妻はとんでもない決断をするのですが、それは後に譲ります。
まず最初に、ヒロインであるジェニファー・ロペス演じるスリム・ヒラーに対し、ドラマのERでお馴染みカーター役をやっていたノイ・ワイリーが演じるロビーが言い寄るのですが、そのアプローチは友達との賭けだと警告するのが、後の夫になるビリー・キャンベル演じるミッチ・ヒラーです。
実はこれは仕組まれた物で、ミッチとジミーがぐるになり、スリムを落とす演技でした。これは、日本の漫画などでも良くある、不良と助ける人がぐるになり女性を口説く…なんてのと同じパターンですね。まあチープですが、ここは本題ではないのでどうでも良いんです。結婚させればここはなんでも良いんです。その後の離婚のごたごたを見せるための結婚ですから。ちなみに、スリムはダイナーのウエイトレスをやっており、いわゆる低所得者層の人間ですね。
その後はサクッと結婚式まで行ってしまいます。前述もしたように離婚のごたごたがメインなので、出会いや結婚までの過程、プロポーズもどうでもいいんです。結婚式では、「新婦のお父さんは出て行ったのでいないも同然」と、ミッチの両親が話していましたが、これがのちにちょっと無理矢理な伏線になっちゃいます。また、元恋人のダン・ファマン演じるジョーが出てきますが、こちらも後に出てきます。
浮気の発覚
最初は家庭円満でした。娘も生まれ、おそらく3歳か4歳か…。そこまでは一応表向きでは夫婦関係が円満で、DVもありませんでした。しかし、夫のミッチの態度が豹変した理由は、妻のスリムが夫のポケベルを見て、その電話番号に掛けたことからのの浮気発覚でした。その前も、ビーチで家族3人遊んでいるときつまらなそうにしたり、スリムが一緒にお風呂に入ろうと声を掛けても断られるなど、ミッチの態度が変わっていっている様子はあったんですけどね。
この最初の浮気発覚ではなんとか和解したのですが、これを切っ掛けに夫婦仲が疑心暗鬼になり、ミッチは浮気をやめていなかったようで、詰問したスリムが殴られ…。2発目は男女平等グーパンチです。これで夫婦間の仲は完全に破綻しました。
もうこれで仕事へ行くと嘘をついて浮気相手の所へ行かなくて良くなったとミッチは開き直り、俺が稼いでるんだからお前は従えと命令。完全に態度が豹変しました。
殴っても妻を失いたくはない
ミッチは浮気をし、妻のスリムをグーパンチで殴ったのですが、それでもスリムを失いたくない、愛の暴走だと言っていましたが…異常ですね。この気持ちは私には分かりません。また、警察に相談にも行くのですが、公務員の事務的手続きや態度、民事不介入の面倒さなどで、結局ミッチは警察に助けて貰うことを諦めてしまいます。
ミッチは夫に何を言っても無駄、夫の親に言っても無駄、警察に言っても無駄だと知り、夫から離れるべく家を脱出しようとするのですが…。何故か夫がいる深夜に子供を抱えて脱出を試みます。夫が仕事でいないときに出て行けば何の障害もなく、買い物に行くが如く簡単に逃げられると思うんですけどね。
ここでは、夜逃げ屋本舗よろしく、頼んでいた友人が家の外で待機していたのですが、ミッチに見つかり阻止されそうに…。
ここは助けに来た義父のファインプレーで、子供をわざと起こし、お父さんを見るように促し、ミッチの銃を封じました。あれだけDVで妻を殴って浮気しまくっても、娘にお父さんが暴力的で怖いと思われるのは嫌なんですね。このおかげで、スリムと娘は取り敢えず暴力夫から逃げることができました。まあここまでも普通に離婚の揉め事ドラマ、DV映画ですよね。
逃亡劇
ミッチから逃げたスリムですが、クレジットカードも銀行口座も凍結され使用できなくなり、まともなホテルの泊まることができず、モーテルで泊まることに。しかし、そのモーテルもミッチはかぎ付け追い掛けてきます。その次に行くのはシアトル。元彼の元へ逃げるのですが、ここも追っ手が迫ってきてアウト。居られなくなります。
実父は金持ちだった
逃亡を続けるのにも限界を感じたスリムは、これまで疎遠だった実父を頼ります。そして。その実父は実は大金持ちの会社社長という…。結婚式のときに一言だけ実父について触れていましたが、その複線がここで回収されました。しかし、結局身内が金持ちで金の力でなんとかするというのはどうもね…。まあここをおかしく思う必要ないくらい、この後無茶苦茶な展開になるのですが…。
死亡した人に成り代わる
どこへ行ってもミッチの魔の手が伸びるので、スリムはなんとここで死亡した人を調べ、その人に成り代わってしまいます。文書偽造をし、社会福祉番号まで貰うわけですが、この辺りからどうも方向性が怪しくなってきました。
父親はクズで、5人の子供が居て、孫を見せて助けてと懇願しても馬鹿にした態度で12ドルくれるというだけ…。しかし、その後態度が豹変し、支援をしてくれるのですが、それは何故かというと、ミッチの手下がスリムに協力したら殺すと脅されたからです。それが気にくわなくて逆に本来どうでも良いスリムを助けることに。しかし捻くれてますね。
カーターは刑事だった
最初にナンパ劇で出てきたカーター先生…じゃなくてロビーですが、実は刑事でした。その職を生かし、スリムから掛かってきた電話を逆探知し、折角偽造までして手に入れた安住の地を奪われることになってしまいます。
ロビーの追跡もミッチの追跡もなんとかかわしたスリムはなにかを決意します…。
特訓開始!
スリムの決意は…暗殺の特訓でした。嘘みたいでしょこれ。本当なんです。
離婚のゴタゴタだったはずの話なのに、なんと最終的な決着は肉弾戦、および暗殺へと舞台を移すんです。一介の主婦だった無力なスリムが、いつのまにか暗殺の特訓をするというぶっ飛んだ展開に、笑いを抑えられませんでした。まんまベストキッドの修行シーンです。…離婚の話だったよね…これ…。
ちなみに、この暗殺のインストラクター、もとい師匠を紹介したのは実父のジュピターでした。実父が金持ちで人脈がなければこの話は無理だったんですよね。この映画に言うのもなんですが、この辺ご都合主義ですね。
いざ暗殺へ
修行を終え、やる気満々のスリムは、いざ夫のミッチの家へ忍び込みます。ピッキングも完璧にこなし、忍者のように物音1つ立てずに忍び込み、天上に潜んでミッチが家を出るのを待ちます。
ここも逃亡するときのように、夫が居ないときに入れば、一晩天井裏で過ごさなくても良いのにと思ったのですが、不在時に扉を開けると防犯ブザーが鳴る仕組みなので、わざとミッチ在宅時に侵入する必要があったわけです。そのおかげでセコムよろしくの防犯装置は働きませんでした。こんなところはちゃんと考えてるんですよね。離婚が暗殺の話にぶっ飛ぶ馬鹿映画なのに…。
ちなみに、ミッチが不在時になにをしたかというと、まずは電話が通じないように電話線の切断。電気ケーブルも切断。包丁などの凶器を隠し、金属探知機で銃を探しこちらも隠しました。また、銃があったところに自分が書いた手紙を入れ、指紋を付けさせてのアリバイ証明の準備。この辺暗殺のプロとしか思えない手際の良さです。夫婦喧嘩の話だったのに…。
肉弾戦の対決
準備万端で待ち構えていたスリムは、帰って来たミッチと遂に対決します。
計算通り、アリバイのための手紙を触らせ、ライトを消し、電話も使えなくしたスリムですが、なんとミッチが911に掛けようとした電話までも、妨害電波を飛ばして阻止します。スリムは何者なんだ…というか、師匠は何者でどこまで教えたんだろう…。
本当に最後は肉弾戦での対決です。そこにはなんの工夫もありません。殴り合いです。しかし、師匠と修行をしたスリムに隙はありません。体格差やパワーをテクニックでカバーし、なんとかミッチをKOしてしまいます。しかし、「やっぱり人殺しはできない!」となったところに先ほど倒した敵が背後から現れ、逆に主人公がノックアウトされるという映画あるあるの展開に。
ここで突然天の声が…。そう師匠の教えです。「相手が勝ったと思い棒立ちになり、卑怯者の常で蹴ってくる、そこを狙うんだ」との師匠の有り難い教えが…。まるでスター・ウォーズのフォースの声のようです。そしてこれは何回も言いますが夫婦間のDVの話です。
この天の声に目覚めたスリムは、師匠の教え通り体を動かし、遂に宿敵ミッチを亡き者とします。こちらもあるあるで、殺意は無かったけど仕方なしに攻撃したら落下して死んじゃったよねとの死に方です。
正当防衛?
結局これは当初の目論み通り正当防衛が成立したようで、後日談として避難させていた娘と再会し、昔の恋人とよりを戻したような描写がありました。そして、皆笑顔でハッピーエンドの終わり方という…。
総評
突っ込みながら見ると物凄く楽しいので馬鹿映画は大好きなのですが、前半と後半でここまでギャップのある映画はあまり記憶にありません。友人と馬鹿映画鑑賞会でもするときに、これを持ってくと大うけすると思います。ただ、面白いというのはあくまで馬鹿映画として面白いのであって、映画のクオリティが高いとか、純粋に映画が面白いと言っているわけではないので、そこだけは注意してください。ただ逆に、馬鹿映画好きの人にならお勧めできます。
こんな人にお勧め
- B級映画マニアな人
- 突っ込みどころ満載の映画が好きな人
- 馬鹿映画が好きな人
- 強い女性が好きな人
- 弱者が強者になる話が好きな人
関連リンク