一風変わった男女入れ替わり物語「ぼくは麻理のなか/押見修造」(第1~5巻)レビュー

概要

ぼくは麻理のなか

上京後、友人作りに失敗したことが原因でまともに大学にも行けず、部屋に引きこもりがちな青年・小森功。唯一の楽しみは行きつけのコンビニで見かけるとある女子高生を尾行すること。だがある日、いつものように彼女のあとをつけていると異変が起こる。女子高生は足を止め、後ろを振り返り、功の方を見た。その時少女は、わずかに微笑んでいた…。功の意識はそこで途切れた。

 

翌朝、気付くと功は見知らぬ部屋にいた。そして鏡に映っていたのは1人の女の子、彼がひそかに「コンビニの天使」と呼んでいた女子高生・吉崎麻理だった。突然の出来事に困惑しながら「麻理」の姿のまま女子高生として過ごす功だったが、やがて彼は気付く。本物の麻理はどこへ行ってしまったのか? そんなある日、「麻理」のクラスメイト・柿口依に功が「麻理」の身体に入れ替わっていることに、気が付かれる。

 

欲望に正直な「転校生」

これはいわゆる「男女入れ替わり」の話です。心の中だけ男女で入れ替わってしまい、女性登場人物の体に男性登場人物の心が、男性登場人物の体に女性登場人物心がという、いわゆる「おれがあいつであいつがおれで」、「転校生」の話です。

 

 

ただ少し変わっていて、主人公男性の小森の心は女性の麻理の中に入るのですが、麻理の心は小森に入っておらず、正確には「入れ替わり」にはなっていません。女性の体に男性の心が入ってしまう戸惑いや、男女の違いから来る笑いや困難なんかが、この男女入れ替わり物ではテーマになるのですが、この「ぼくは麻理のなか」では、寧ろこれより、「じゃあ麻理の心はどこに行ったのか?」が大きなテーマになっています。

 

 

5F62E4BE11363C3E

 

協力者

「麻理の心はどこに行ったのか?」がメインテーマであることは前述しましたが、この麻理探しを主人公の小森1人でやるわけではありません。 大抵この手の男女入れ替え物では、入れ替わった男女2人だけの誰にも知られてはいけない秘密になるのですが、ぼくは麻理のなかでは、途中で正体を見破ったクラスメイトの柿口依(より)が、麻理探しの協力者として登場して、物語に大きく絡んできます。

 

D0D27FA4F8C2D896

 

この依もただのクラスメイトという訳でもなく、助ける動機も親切心や友情からでもなく、とても歪んでいまして…。登場人物皆なにかしら裏の顔というか、他人には見せない本当の自分を持っていて、本性はある意味醜いんです。そしてその醜い自分になったのは何故なのか。これが明らかにされていく物語も、押見修造さんの漫画の特徴でもあります。

 

押見修造ならではの気持ち悪さ

これは悪口でもなく、貶しているわけでもないのですが、押見修造さんならではの、人間の心の闇や、「人には見られたくない醜悪な自分」がこの漫画にも色濃く出ています。「悪の華」ほどではないですけどね。悪の華はなんというか…読んでいて気持ち悪くなることすらあるほど、人間の醜悪な部分を表現していたのですが、ぼくは麻理のなかではそこまで露骨に「気持ち悪がらせてうやろう」とはしていません。

 

 

個人的にはこれ以上醜悪な部分が話のメインになってくると、継続して楽しく読むのは厳しいかなと思います。

 

入れ替わり物ではないかもしれない

ぼくは麻理のなかは、男女入れ替わりの話だと書いてきましたが、5巻まで読んだところ実は違うかも知れません。

 

29DB8EA0

 

どうも麻理の精神がおかしいエンドあるんじゃないかと…。麻理の心が小森に入っていないことに加え、小森は麻理の記憶まで多少持っています。更に麻理は小森を観察(有り体にに言えばストーカー)していて、かなり詳細に行動や傾向を知っていたので、自分の中に小森の人格を作ったのかも…。いわゆる多重人格の話かもしれません。とは言え、まだこの先ずっと続くなら、ネタバレが早すぎるので、ここから二転三転するはずです。その場合素直にここに着地はしないと思うのですが、押見修造さんの漫画は15巻続くような長期連載はないので、このまま多重人格オチかも…。

 

元々、小森が麻理のプチストーカーみたいなことをやっていたはずだったのですが、話が進むと麻理も小森のストーカーをしていたことがわかりましたし、この辺のカオスな人間関係や、外面に出ない「本当のその人の姿」を描かせたら、押見修造さんは上手いです。

 

AFEF76C2F4D1D8A4

 

デイヴッド・リンチ

前述もしましたが、この押見修造さんの描く漫画はテーマが重いです。もっとハッキリ言ってしまうとテーマが気持ち悪いんです。これは悪口ではなく、こういった特殊な方向性の漫画を描くのもひとつの特色であり、長所でもあると言えます。皆が皆爽やかな漫画を描いても多様性がなく面白みがありませんからね。

 

ただこういった特殊な漫画はある程度読む人を選びます。読む人皆が楽しめるかといえばそれは否ですし、また楽しませようとしている漫画でもありません。映画で言えばデイヴッド・リンチ監督の立ち位置みたいなものでしょうか。デイヴッド・リンチ監督は、カルトの帝王と呼ばれることもあり、好きな人はとことん好きなカルトな映画を撮るのですが、魅力が分からない人にとっては、単なる意味不明な映画になってしまいます。

 

 

ただ押見修造さんの漫画はストライクゾーン判定漫画としても使えます。押見修造さんの漫画が面白く読めるなら、こっち系統の「気持ち悪い漫画」もストライクに入ってくると思います。気持ち悪い系としてはその成分が抑えめですし読みやすいですし、誰もが1度は想像したことのある男女入れ替え物なのでお勧めです。個人的には押見修造さんの漫画の中ではマイルドでしたし面白かったです。

 

こんな人にお勧め

 

関連商品

 

当該商品