「沈まぬ太陽/WOWOW」レビュー ~久々に硬派なドラマを見た~ 5/5 (1)

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あらすじ

1961年。日本を代表する企業・国民航空に勤める恩地元(上川隆也)は、労働組合委員長・八馬(板尾創路)から次期委員長を押し付けられる。不本意ながらも任に就く恩地だったが、同期で副委員長の行天四郎(渡部篤郎)とともに、労働条件をめぐり堂本取締役(國村隼)ら経営陣と激しく対立する。そんな中、人員不足による整備士の死亡事故が発生。

 

劣悪な労働環境がただされなければ“空の安全"を守れないと信じた恩地は会社始まって以来のストライキを断行し、会社側の譲歩を勝ち取る。しかしその後、恩地は報復人事ともいえるパキスタン・カラチ支店への転勤を言い渡され、妻・りつ子(夏川結衣)や子供を置いてひとり海外へたつこととなる。一方、かつての同志・行天は恩地ら組合側と手を切り、労務担当幹部に取り入りながらも自らの理想の会社像を追い求めることを決意。僻地へ飛ばされた恩地と出世を選んだ行天。2人の運命が大きく動き始める。

 

はじめに

今回レビューするのは、山崎豊子さん原作のWOWOWドラマ『沈まぬ太陽』です。

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それでは早速レビューを書いていきたいと思います。

 

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日本航空123便墜落事故周辺を描いた物語

いやあ…久々に日本のドラマにどっぷりはまりました。たまたま番組表を見ていたところ、WOWOWで『沈まぬ太陽』の文字を見付けました。沈まぬ太陽というタイトル自体は、渡辺謙さん主演の映画が一時話題になっていたので知っていました。「ああ、あの映画のドラマ版ね」と思い、番組説明を見たところ、私の大好きな『白い巨塔』の原作者と同じ山崎豊子さん作とのこと。じゃあ一応録画だけでもしておくか…とのことで録画だけはして、10話くらいまでは見ていませんでした。

 

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そんなある日、暇だったので1話を見たところ…1話見ただけで完全に填まってしまいました。あとはぶっ続けで見て本放送に追いついたあとは毎日が楽しみで楽しみで…。と、言うことで、今回は今更ながらに填まったWOWOWのドラマ『沈まぬ太陽』についての感想を書きたいと思います。ちなみに、ネタバレの時はきちんとここからネタバレで、ここまでネタバレとオレンジ色のマーカーで記載します。

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ざっくりこのドラマを説明すると、かの有名な航空機史上最悪の事故である日航ジャンボ墜落事故…の話ではなく、その時やその前後で航空会社内ではなにが起きていたのか…とのドラマです。日航ジャンボ墜落事故そのものを扱ったドキュメンタリーや映画はありますが、『その時会社の内部でなにが起きていたか』なんてドラマは見たことがなかったので、このユニークな視点にまずは心を鷲づかみにされました。

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日本航空123便墜落事故(にほんこうくう123びんついらくじこ)は、1985年(昭和60年)8月12日月曜日18時56分に、東京(羽田)発大阪(伊丹)行同社定期123便ボーイング747SR-100(ジャンボジェット、機体記号JA8119、製造番号20783[1])が、 ボーイング社の修理ミスによる後部圧力隔壁の破損、および、垂直尾翼と補助動力装置の破損、油圧操縦システムの全喪失により、群馬県多野郡上野村の高天原山の尾根(通称「御巣鷹の尾根」)に墜落し、乗員乗客合わせて524名中、520名が死亡した航空事故である。

 

 

ちなみに、調べてみるとこのドラマの原作連載時には、日本航空さんは連載誌を機内に置かなかったり抗議したりしたそうです。まあ、それだけ本作に社会的影響力があったということでしょう。ちなみに、本作では日本航空の名前を国民航空(以降、国航)と変えています。

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さて、話をストーリーの方に戻すと、1985年の日航ジャンボ墜落の年を現在として始まり、時は戻って1971年の2,3年前(?)に戻ります。最初に飛行機が墜落したシーンをやるものの、突然15年ほど前に戻り、そこから飛行機事故のことはしばらく一切出てきません。上川隆也さん演じる主人公の恩地元(おんちはじめ)が国航労組委員長を強引に押し付けられるも、責任感から会社と待遇改善、安全向上のために交渉の場で戦います。これまでは会社も労組もなあなあでやってきた中、突然ガチの労組の交渉に困惑し、反発する国航。ここから恩地と会社の軋轢が始まります。

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日航ジャンボ墜落が起きるまではずっとこんな感じで、会社と戦う恩地、邪魔者をなんとか懐柔したい国航、団結する仲間、離れていく仲間…など、航空機墜落と繋がるとは思えない話が続きます。…が、これが面白いんです。そして、このときからの腐敗体質が後の大事故に繋がっていきます…。この事故が起こった背景をこれでもかってほど丁寧に丁寧に描写しています。後述しますが役者の迫真の演技もあり、見ていてグイグイ引きつけられてしまいました。

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原作者の山崎豊子さんは、白い巨塔でもそうでしたが、社会問題を描かせたらピカイチの作家のようですね。小説に疎いのでこの辺りのことは詳しくありませんが…。とにかく1つ1つの描写が丁寧で、何故その対立が起こったのか、今なにを揉めているのか、誰がどの立場なのかが完璧に把握できました。物語が進むと、更に登場人物がどんどん登場し、複雑な人間関係が構築されていくのですが、それでも全て人間関係は完全に把握できました。

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このようなわかりやすさは小説の力なのか、ドラマの描写が上手かったのかわかりませんが、少なくとも2時間や3時間の映画では、ここまで細かく丁寧に描けてはいなかったでしょうね。このドラマは全20話なので、この長さありきだったのかもしれません。しかし、この長さは絶妙でした。逆にこの複雑な話で20年近くに及ぶ物語を、渡辺謙さん主演の映画ではどうやってまとめたのか気になるので、後日見てみようと思います。

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役者の演技が凄い

話の重厚さや丁寧さに驚いたことは前述しましたが、同じく驚いたことは役者が皆演技ありきで選ばれていることです。登場人物は皆演技できる本当の役者ばかりなんです。こんなこと当たり前かと思うかもしれませんが、今の日本のドラマでこんなことはまずないです。視聴者を釣る餌としてジャニーズの演技もできない、役に合わないタレントを起用したり、若くて可愛いアイドル俳優を無理矢理起用したり…。

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時代が進むと新たな登場人物も次々と出てくるのですが、皆主役や名脇役を演じられる人たちばかりでした。ジャニーズやアイドル俳優がいると、基本的に演技が下手なので、意識が画面の外に行ったり、ふと現実に引き戻されてしまうんですよね。勿論、このような人たちも気軽に見る分には良いのですが、今は彼らがいないドラマの方がまれですからね…。そうなるとやはり辟易するわけです。

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ジャーニーズやアイドル俳優のドラマにウンザリしている方なんかは、本格的なドラマなので、このドラマを見ることをお勧めします。特に同じ作者の白い巨塔や、会社で仕事人が頑張る『下町ロケット』が好きな方は確実に填まれる要素があります。

 

長い時間の物語

前述もしましたが、このドラマは日航ジャンボ墜落事故の1985年を中心に、過去編は1971年の2,3年前から、その後は事故の2年後の1987年頃までが描かれています。約20年の物語です。

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主人公の恩地はアフリカに10年飛ばされるのですが、この10年の話は丁寧に描きます。普通だとこの辺はあくまで本編である日航ジャンボ墜落の前の話なので、『5年後』なんてテロップとともに一気に話を飛ばしてもおかしくありません。しかし、このドラマはこのアフリカに飛ばされて生活している様まで描くんです。これには驚きました。今だと視聴率至上主義の地上波でこの構成は無理だと思います。本編の前振りである労組とアフリカで8話まで使いました。

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以前の記事で書いたことがあるのですが、漫画やアニメでも前振りって大事なんです。前振りが丁寧に描かれるからこそ、その後の3mのジャンプが10mの大ジャンプに見えるんです。あしたのジョーでも、ボクシングと関係ない少年院の話を長々とやりました。六田登さんの『F』というF1の漫画でも、カーレースと関係ないくすぶりを数巻にわたってやりました。この前振りで読者や視聴者に逃げられると元も子もないので今は中々できなのですが、この前振りが丁寧にしっかり描写されてることで、その後の活躍がより面白く感じるんです。

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このドラマもこの前振りに似た物があり、それが労組でありアフリカなんです。この理不尽な扱いに怒る主人公をこれでもかってほど丁寧に見せられ、「なんて可愛そうな恩地…」との感情が視聴者にも完全に形成されたところで、恩地の逆襲…と言うと少し語弊がありますが、挽回が始まるんです。なので、見ているこちらとしては、恩地に追い詰められる腐った奴ら、悔しがる様、危機感を感じる様を見て「どうだっ!」って思ってしまうんです。まあ、実際に日本航空の腐敗体質を取材し、現実に起こったことを元に構成しているようなので、勧善懲悪物よろしくのように簡単にはいかないのですが…。

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権力闘争や腐敗などの社会問題を書かせたらピカイチの山崎豊子

ユニークなのは誰しも聞いたことがあり、1度は再現ドラマなどで見たことがあるであろう、日航ジャンボ機墜落事故そのものをテーマにしていないことは前述しました。日航ジャンボ墜落事故は何故起こったのか、その時日航内部ではなにが起こっていたのか、「この事故を起こした腐敗体質とは?」、「改革して果たして立ち直れるのか?」がテーマになっていて、事故そのものの扱いは1話の中でもごく限られた時間で淡泊に終わってしまいました。

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じゃあその時はなにを描いているのかというと、航空管制官の動揺、パーティーに出席していたお偉方に事故が伝わってうろたえる様などです。そして、その後の事故対応、原因究明、責任の取り方などで紛糾する日航内部の様子や権力争いなどが、事故後は中心になります。

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保身に走るお偉方の憎らしいこと憎らしいこと。この辺り役者の演技が凄いです。ムカつく演技をして視聴者にきちんとムカつかせる。これは誰にでもできることではありません。まんまとドラマを見ていて「このクズどもが…」と思ってしまいました。

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事故が起こったあとは政府も積極的に関与し、政治家や役人、関連会社の社長など登場人物が山ほど出てくるのですが、全く話がゴチャゴチャせずに、人間関係や構図を把握できたのは自分でも驚きでした。おそらく、このドラマの説明や人間関係の構図を見ただけの方の中には、登場人物が多すぎて理解できなさそう、難しそうと思われる方もいると思います。しかし、PCを弄りながら横でながら見していた自分でもこの構図を把握できました。面白すぎたので、PCを弄りながらのながら見とは言っても、7割か8割はTVに意識が集中していましたが、この状況でも理解できたのは自分でもビックリです。前述もしてきたように、描写が丁寧でわかりやすいんです。

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また、登場人物は多いのですが、意味のない登場人物が1人もいません。「この人いる意味ないじゃん」という人が10人出てくるのと、ストーリー上役割がある人が10人が出てくるのでは、まるで覚える効率が違うんだなと実感しました。

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そして、登場人物は全員が全員名のある役者ばかりです。名前を羅列しただけでも日本の役者オールスターと言った感じです。全員見たことがあり、名前もほとんど知っている人たちばかりなので、覚えやすかったというのもあると思います。これら役者を全く知らない外国人が登場人物や関係性を全て把握しきれるかと言ったら…わかりません。

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なにも起きないと捉える人もいるかもしれない

私はこのドラマに100点満点を付けたいです。しかし、つまらないと思う方がいるかも知れないのはわかります。と言うのも、やはり俯瞰で見ると別になにも起こっていないんです。日航内での権力闘争や駆け引きが中心であり、アクションはありませんし、わかりやすい勧善懲悪ではなく、悪者が必ずしも駆逐されるかと言えばそうでもありません。かと言って日航ジャンボ墜落をドラマチックに激しく描くことも一切ありません。なので、好みによっては平坦でつまらないとの感想を抱く方がいてもおかしくないです。

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人それぞれの信念

ここからはネタバレが含まれますので、まだ見ていない方で、これから見ようと思って居る方は飛ばしてください。

 

見終わって感じたのは、信念は人それぞれだなあと。どこまで日航ジャンボ墜落の内部の真実を描いているのか知るよしもありませんが、結局初志貫徹で信念を貫いたのは、登場人物中たったの2人でしたね。それは主人公の恩地と、長塚京三さん演じる国見正之会長のみです。しかも、国見会長は任期2年を全うできず、首相の全面バックアップという言葉が実行されず裏切られて辞任。恩地は再びアフリカへ左遷…。誰が勝者なのかわかりません。正義の人も勝てないことがリアルではあるのですが…。

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最初は労組で理想をともに戦った同期の渡部篤恵さん演じる行天四郎も、途中から恩地の強硬なやり方に反発を覚え離れていき、全く別の道を歩み、恩地と対立するようになってしまいました。前述したように最初はバックアップを約束していた首相やブレーンの龍崎も最後には裏切り…。このように、味方と思っていた人間も、時間や状況の変化で手の平を返すことが当たり前のドラマでした。

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この辺りくるっとすぐに手の平を返すと、唐突でストーリーに整合性が乏しくなり、関係性が分かりづらくなる一因だと思うのですが、前述してきたようにゆっくり丁寧に描写されるので、「ああ…段々と心が離れていってるな…」という、登場人物の内心の変化が視聴者に伝わるんです。これが本当に痺れました。

 

見ていて「この流れはやばいぞ…」、「そこはもっと上手く立ち回らないと…」と視聴者に思わせる時間的余裕があるんです。逆に視聴者に考える時間を与えず、次から次へと物語を展開させるジェットコースタームービーとのジャンルもありますが、これとは対極に位置すると思います。視聴者に想像させる、予想させる、考えさせる余裕を持たせているんです。

 

もうこなったらこのドラマに填まってしまって、毎回「それじゃあこのあとはどうなっちゃうんだよ…」と気になって仕方がありませんでした。前述のようなノンストップムービーではなく、ゆっくり丁寧に考える時間もあるドラマで、ここまで目が離せなくなったのは久々でした。

 

ネタバレはここまでです。

 

総評

しかし、まさかWOWOWでこんな骨太で大規模なドラマが製作されるてとは…。そんな時代なんですね。実際にアフリカロケを敢行していたようなので、制作費も相当に掛かっているようです。

 

WOWOW開局25周年ということで、特別予算が出たのだとは思いますが、ここまで面白いドラマをWOWOWがやるなら、今後チェックしなければなりません。寧ろ視聴率至上主義で、その後のディスク販売まで考えられない地上波は、お手軽に視聴率を稼げるジャニーズやアイドル俳優を出すので、本格的なドラマはWOWOWに移行した…ということなのでしょうか。

 

いやあ…とにかく面白かったです。端的に説明すると、『丁寧』、『硬派』、『骨太の演技』、『日本の役者オールスター』と言ったところでしょうか。白い巨塔が好きな人は確実に填まると思います。

 

こんな人にお勧め

  • 硬派な日本のドラマを見たい人
  • 豪華キャストの日本ドラマを見たい人
  • ジャーニーズやアイドル俳優のドラマにうんざりしている人

 

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