目次
あらすじ
「あの日、僕はピアノが弾けなくなった‥‥」仄暗い青春を過ごす元・天才少年、有馬公生。夢も恋もない世界に佇む、彼に差し伸べられた手は名も知れぬ少女のものだった!!
母の死をきっかけにピアノを弾かなくなった、元・天才少年有馬公生。目標もなく過ごす彼の日常は、モノトーンのように色が無い‥‥。だが友人の付き添いで行ったデートが、少年の暗い運命を変える。性格最低、暴力上等、そして才能豊かなヴァイオリニスト‥‥少女・宮園かをりと出逢った日から、有馬公生の日常は色付き始める!! 青春を切り取る注目の作家・新川直司がおくる、切ない青春ラブストーリー最新作第1巻!
私には合わなかった
最初に言っておきます。この四月は君の嘘という漫画は私には全く合いませんでした。なので、これから書くことは、何故合わなかったのか、もっとハッキリ言えば何故つまらなく感じたのかが主題になるので、四月は君の嘘が好きで、否定的な意見を見たくない人は読まないで下さい。
私のいつものパターンなのですが、アニメが始まるとのことで、この四月は君の嘘という漫画を知り一気読みしました。そして読み終わった結果、率直な感想として、合わない、つまらないと思いました。
いいとこ取りなんだけど…
中学生の主人公有馬公生は、母の死を切っ掛けにピアノを弾けなくなって数年。そんな折、偶然出会ったバイオリニストの少女宮園かをりと出会うことにより、そのトラウマを克服し、音楽の世界に戻っていくというのが大雑把なストーリーです。また、当然ながらその中には、恋愛や友情の話も盛り込まれています。ところが、この一つ一つの要素が実に薄っぺらく感じてしまいました。
綺麗すぎる物語
薄っぺらい一因でもあると思うのですが、物語が綺麗すぎるんです。汚い部分や嫌な部分が皆無で、登場人物やそのやりとりや言葉が全て綺麗なんです。あまりにも理路整然と綺麗に整えられすぎていて、不自然に思えました。
汚い部分が唯一あったのは、有馬公生の母親がスパルタ教育が過ぎるとの描写でした。しかしこれはフォローが入らないまま終わってしまいました。一応母親には時間がないので、有馬公生をスパルタ教育してたような話はあったのですが、それだけでは帳消しにできない悪意のある描き方でした。この辺のバランスも悪いと感じました。
大人すぎる言動
まず違和感を覚えたのが、登場人物の言動がみんな大人すぎるということ。全ての登場人物が大人びているのを飛び越え、仙人のような達観ぶりだったり、冷静に心理を突いたアドバイスをしたり、非常に言動に嘘臭さを感じてしまいました。現実的であれば良いとは決して思いませんが、言動があまりにも現実離れしすぎていると冷めてしまいます。
中学生が人生を悟ったかのようなことを言ったり、偉そうにアドバイスしたりしますからね。正論なんですよ。正論なのですがそれだけに、「いやいや中学生がそんな思考でそんなこと言わないだろ」と失笑する程、浮き世離れしているんです。ここで1度「いやいやw」と現実に引き戻されてしまって、話にいつまで立っても入れませんでした。
簡単に乗り越えるトラウマ
主人公の有馬公生は母親の死がトラウマになり、数年ピアノを弾けなくなり、集中が高まると自分のピアノの音が聞こえなくなっているのですが、このトラウマをあっさり乗り越えてしまいます。ピアノの音が聞こえないのをどうやって克服したのかも明確にされないまま、どんどん話が進んでいき、最後までピアノの音が聞こえない部分はどうなったのか謎のままでした。
このようなことからもわかるように、この四月は君の嘘は、音楽はあくまでテーマに過ぎず、青春物語をやりたかったと思うのですが、音楽で生計を立てようとしている人たちの話であるにも関わらず、音楽関連のエピソードに深みが全くと言っていい程ありませんでした。
女の暴力=ギャグ、男の暴力=クズ
ヒロインの宮園かをりと幼なじみの澤部椿は、頻繁に暴力を振るいます。女の暴力はギャグ。男の暴力はクズ。この四月は君の嘘に限らず、昨今のアニメや漫画ではこういう風潮が多いです。
フェミニズムとか男女平等とか難しい話をするつもりはありません。単純にこの安易な、女の暴力をギャグとする風潮が苦手なんです。そもそも女性が男性に暴力を振るうことにどんなギャグ性があるんでしょう。少なくとも私は、面白いとは全く感じないどころか、その描写や安易さが不愉快です。
頻繁なポエム
四月は君の嘘の寒いノリの一つとして、頻繁なポエムの登場があります。下手をすると1話中1/3くらいこのポエムかも知れません。登場人物の心の声を、まるでポエムや音楽の歌詞のように延々続けられる様は、かなり独特の物があります。
もうこれが臭くて臭くて…。前述もしましたが、物語が綺麗すぎる要員の一つがこのポエムで、あまりにも描かれる世界が綺麗すぎて、逆に引き込まれる魅力を感じないんです。
頻繁なフラッシュバック
ポエムが独特との話を前段でしましたが、このフラッシュバックもなかなか独特です。過去の回想を物語中に入れてくるのは、漫画やアニメや映画でもよくあるのですが、この四月は君の嘘は海外ドラマのLOSTばりにフラッシュバックが入ります。
そもそも主人公たちが中学生なので、「過去の回想」と言っても、幼少期の時期の話オンリーなので、話の広がりが全くなく、これも薄っぺらく寒い要員の一つだと思います。
死と病気の押し売り
これも漫画やアニメや映画でお馴染みです。主要人物が死ねば衝撃だろう。感動するだろう。難病と闘う様はどうよ。そんな安易な思い、どこかで見たような話の継ぎ接ぎがやたら目立ちました。例えるなら、一頃の携帯小説のような感じでしょうか。携帯小説も一時酷かったですね。ドラッグ、妊娠、中絶。恋人の病気、死亡。そして私頑張る。陳腐の代名詞になるほど薄っぺらい話が蔓延しましたが、四月は君の嘘もその感覚がするんです。
特に違和感を感じたのは、ヒロインの宮園かをりの病気がなんなのか一切語られなかったことです。具体的な病名が出ないどころか、どういう病気なのかさえ一切触れられず、友達も一切疑問にも思わず聞きもしません。ここにも薄っぺらさを感じます。ヒロインが病気で苦しむ姿出すと食いつくだろう的な物が透けて見えてしまうんです。
病名なんかは本質ではないと言われるかも知れませんが、ヒロインが難病に苦しんでいるとなれば、「何の病気なんだろう?」と思うのは自然の流れだと思います。それは漫画にのめり込んでいればのめり込んでいる程、その思いは強くなると思います。それを「本質とは関係ないから気にするな」と押さえつけることは不可能です。そして一度この疑問を持ってしまうと、本人も友達も家族も医者も全く病気の具体的な事に触れないのが、どんどん不自然に思えてきて、病気に苦しんでいるヒロインを見てもなにも伝わることがなくなってしまいました。
病名を出さない、具体的な症状も出さない。これでは単に病気をダシに面白くなりそうで、読者が食い付いてきそうな話を入れてみました感が強くなってしまうんです。少なくとも私はそう感じました。苦しんでいるヒロインをただ見せたいだけで、病名や症状なんてどうでもいいんだなと。
病気や病状を詳しく描けば、その病気によっては、治療方法や復活の道も見えてくるので、その辺の先の展開を狭めることを避けたんだなと思います。で、こういう邪推をしてしまうので、邪推の余地はある程度潰す具体性が欲しかったんですよね。
良いところもある
とまあ、ここまで酷評と言っていい感想になってしまいましたが、一応全巻読んだと言うことは、私の中では平均点には及びませんでしたが、良いところもありました。
一つは絵柄が綺麗なこと。絵柄には好みがあるので、一概には上手い絵柄とは言い切れませんが、私はこういう線が太く見やすい絵柄は好きです。
もう一つはダラダラ続かずに終わったこと。私はヒロインの宮園かをりが死んだ後、それを乗り越えた有馬公生の話が続くと思っていました。実際今までの漫画ではそういう話も多かったように思います。ところがこの四月は君の嘘は、宮園かをりが死んで話が終わりました。ダラダラ続いて、あそこで終わっておけば…との漫画をいくつも見てきたので、これは評価できることの一つです。
綺麗すぎる話だからこそ目立った
あまりにも綺麗すぎる物語や世界観、登場人物に違和感を覚えると描きましたが、逆に言えばこれこそがこの四月は君の嘘の特徴であり売りです。
もしこれを現実に即して、登場人物の中学生の思考回路をもう少し幼く稚拙にし、世界観を意地悪な人を出したりして現実に近づけ、音楽や病名、病状に具体性を持たせたらどうなるでしょう。おそらくその辺によくある漫画として埋没します。やり過ぎな程綺麗な世界だからこそ、おそらく目立ち、アニメ化まで行ったんだと思います。そういった方向性や戦略では成功したんだろうなと思います。
面白いかつまらないか以前に、この世界観や登場人物を受け入れられるかどうか。この一点に尽きると思います。
追記:本レビューに関する補足説明
『女性の暴力=ギャグ』についてですが、別に目くじらを立てて本気で怒っているわけではなく、本文にも書いていますが「安易だな」、「面白くないな」との感想です。シティーハンターのようにギャグ要素を前面に押し出すわけでもなく、『安易』に『直接的』に描くことに違和感を覚えてしまいました。もしかしたら、絵が凄く綺麗でリアル路線だったことにも関係があるのかも知れません。もっともっとギャグですよと提示される絵柄や表現方法なら良かったのかも…。私の受け取り方が異常なのかも知れませんね…。このあたりの感情を正確に伝えるのは難しいです。言葉足らずで申し訳ありません。
私の説明が至らないせいで勘違いさせてしまっているかも知れませんが、これを面白いと思う人、感動する人を否定する気は一切ありませんし、「これを面白いと思うなんておかしいんじゃないの?」なんて気は、本心から1ミリもありません。なので、どうか「自分の意見や感想を否定された」とは思わないでください。
あくまで「この作品を読んで私がどう思ったか」のみであって、「この作品を読んで面白いと思った人、感動した人を私がどう思ったか」ではありません。読んだ人の感想を否定するものでは一切ありませんので、そこだけはどうかご理解していただけたらと思います。
可能であるなら、面白いと思った人がいて、面白くないと思った人がいるというごく当たり前の話で、面白くないと思ったこういう人の意見もあるのだなと、意見の多様性の一つとして受け止めていただけたら幸いです。
このレビューを読んで不愉快になった方は申し訳ありません。ネットで検索しても絶賛が多いので、自分の意見が異端だというのは自覚しております。
面白くてもつまらなくても、意見を率直に書くことがこのブログのコンセプトなのですが、人を不愉快にさせるレビューは本意ではなく、今後ネガティブなレビューの投稿については再考したいと思います。
こんな人にお勧め
- クラシックが好きな人
- 携帯小説が好きだった人
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