今回レビューするのは、めぞん一刻の第24話です。
思うところがあり、今回アニメ全話レビューの大幅な加筆修正に着手します。
それでは早速レビューを書いていきたいと思います。
先の展開のネタバレについては、このようにオレンジ色のマーカーで、ネタバレの始まりと終わりを注意します。重要なことを強調する黄色のマーカーとは別なのでご注意ください。
目次
あらすじ
惣一郎さんの二周忌。音無老人と両親とともにお墓参りに行く響子さん。響子さんはお墓の前で音無老人から籍を抜いてやり直した方が良いと言われます。一方、五代君はこずえちゃんの実家に不意打ちで招待され困惑。なんとか切り抜けたあと、心配する響子さんを駅に迎えに行くのですが…。
みどころ
- 響子さんと両親の腹の探り合い
- 音無老人の聖人さ
- こずえちゃんの家族の怖さ
初登場人物
- 七尾こずえの父
- 七尾こずえの母
- 七尾葉介(こずえの弟)
感想
たった1回しか流れなかった幻のOPとED
今回の第24話は…そう、あの幻のギルバート・オサリバンの『アローン・アゲイン』がOPに、EDも同者『ゲット・ダウン』になった回です。そして、なぜ幻かと言うと、このたった1回しか流れず、次回からまた前回のOPとEDに戻るからです。
なぜこんなことになったのか…。wikiでは下記のように記載されています。
ギルバート・オサリバンの楽曲起用について
第24話のテーマソングは実写劇場版の公開に合わせて、そのテーマソングであるギルバート・オサリバンの楽曲『アローン・アゲイン』をオープニングテーマに、エンディングテーマには『ゲット・ダウン』が起用された。しかし、諸般の事情で2曲とも1回きりの起用となった。
続く第25話では以前のテーマソングが引き続き起用された。これについて、番組の広報担当者が当時のアニメ雑誌上で「曲の権利関係の調整が不十分だった」と、著作権上の問題であったと弁明している。しかしアニメ誌以外では事情説明がなかったため、情報が伝わらなかった。
当時プロデューサーの松下洋子は、以下のように語っている。
当時、安濃高志チーフディレクターの交代の時期で、制作現場はかなり忙しかったため、やむなく『めぞん一刻』のキャラクターに不慣れな古瀬登を作画監督に起用したが、完成したオープニング、エンディングはキャラクターも似ていないし、色もパッとしないものになってしまった。そのため第24話の視聴率はガタ落ちしたとなっているが、実際は曲が『めぞん一刻』のイメージとかけ離れていたため、『めぞん一刻』だと気づかず見飛ばしてしまったことが視聴率低下につながった要因ではないかとも言われている。また、不評の電話もあったため、即刻元のオープニング、エンディングに戻すに至った。
ただしその後、第27話のラストシーンで挿入歌として『アローン・アゲイン』が起用されている。
当時のアニラジ「mamiのradiかるコミュニケーション」では、この件についてフジテレビに問い合わせたところ「『悲しみよこんにちは』がオリコンで急上昇したために戻した」との回答を得たとしているが、急上昇した事実はない。
要はは未だに実際の所はよくわからないと言うことです。
絵がめぞん一刻のイメージからかけ離れていたためとも言われていますが、確かにところどころ『これめぞん一刻?』と思わせるような変な絵があります。曲も個人的にはイメージとかけ離れています。めぞん一刻は日本らしい下宿のようなアパートの話です。和風な物語にお洒落な洋楽はどう考えても合いません。
少しおかしいと言うか気になるのは、ずっとあとの桜迷路のシーンや、三鷹さんがポロポーズして響子さんが喫茶店で待つシーンがあったこと。結果論ですが、めぞん一刻のOPやEDは20話前後で変わっているので、どう考えてもこのOPでそこまで行きません。
このOPとEDはこの1回で終わってくれて良かったです。当時リアルタイムで見ていたら私もおそらく不満だったと思います。これを20話とか見せられるのか…と。
権利の関係だと、ファンの間で語られている説で、実写映画版に両曲の使用が決まっていたため、アニメでも使えると思ったら駄目で怒られた…なんて説もあります。
この第24話の放送日が1986年9月3日。実写映画版の公開日が1986年10月10日。さもありなんです。
と、言うことで主に出ている説としては下記の2点になります。
- 権利の関係
- 絵や曲ががめぞん一刻のイメージとかけ離れていたため視聴率がガタ落ちした
個人的な想像ではやはり権利関係かなと思います。いくら絵柄がマッチしていない、曲が合わないと思ったとは言え、1回、1週間でOPもEDも変えるでしょうか。とにかく、この回のOPとEDは貴重です。その後市販されるディスクや再放送ではきちんと流れたので、権利関係だったとしてもそこはクリアしたのでしょう。
2つの話が並行して進む
今回の物語は2つのエピソードが並行して進みます。海外ドラマで良く見るタイプです。1つは響子さんのお墓参りする話。もう1つは五代君が七尾家に招待される話。この2つが場面が切り替わりながら同時進行で進みます。
- 響子さんお墓参りに行く
- 五代君七尾家に招待される
本来、それぞれ別個の話にしても成立するのですが、1話に詰め込む贅沢さ。理由としては、どちらか一方にした場合、響子さんか五代君のどちらかがずっと出てこなくなるからだと思います。
今回の林原めぐみ
今回は久々にモブで林原めぐみさんが登場。アニオリで五代君とこずえちゃんが喫茶店で喋っていたのですが、そこのウエイトレスでした。また、その後五代君は七尾家へ行くのですが、弟の声も林原めぐみさんでした。
アニメは漫画で描かれている『その前』を描くことが多い
めぞん一刻の原作漫画の場合、いきなり五代君がお洒落をし、ネクタイをした状態で一刻館から出掛けるところから始まりました。その後話が進むと、こずえちゃんにネクタイを締めてくるように言われていたことが分かるのですが、この『こずえちゃんにネクタイを締めてくるように言われた漫画では描かれていないシーン』がアニオリで最初に追加されています。
以前にも何回か書いていますが、アニメはこのように、漫画で描かれていなかった『物語が始まる前のやりとりやりとり』を描くことが多いです。理由としては単純に尺稼ぎだと思います。漫画の20ページを30分アニメにするには、なにかしらアニオリを入れたりして引き延ばさなければ成立しません。ならば、漫画に沿った話を…と言うことでしょう。
ここにもめぞん一刻の漫画の特徴が出ています。漫画の場合、1話20ページしかないので、細かい描写や事前のやりとりはだいぶはしょっています。今回で言うと、こずえちゃんにネクタイを締めてくるように言われたシーンです。こんなところまで全部入れていたら20ページでは足りません。
漫画は事前のやりとりがだいぶはしょられているのですが、それでも読んでいくと事前にどんなやりとりがあってこうなったのかわかる造りになっています。このあたり高橋留美子さんの構成力や見せ方が上手いなと感心します。
今回の場合、その後たった1コマだけ、五代君がこずえちゃんに対し「きみがして来いって言うから」との会話があります。これで読者は全て分かります。これまでなんの説明もなく、五代君はネクタイを締めてお洒落をしていて、なんだろうな…と思っていたところにこれなので、たった1コマで事前の五代君とこずえちゃんのやりとりがパッと頭に浮かび、この状況の全てが分かります。
漫画は1話のページ数が少ない分、細かいやりとりははしょっているのですが、それが逆に会話や物語のテンポの良さを生み出しています。本当に見せ方が上手いです。
惣一郎さんの二周忌に両親が来る
五代君は部屋でネクタイを締めて鏡を見ながら、「サラリーマンになったら毎日こんなことをしなきゃならんのか」と言っていましたが…ならないんですよね。この話を制作しているときには、とっくにそのことが漫画でわかっていたので入れたネタでしょう。
今回は惣一郎さんの二周忌の話が2つの軸の1本です。そして、今回のお墓参りには響子さんの両親が参加。去年はまだ登場していなかったので参加しませんでした…と言ったら元も子もないのですが、前回の第23話で響子さんが「お墓参りに来てくれなかった」と恨み節を父親にぶつけていましたが、こういうところで整合性を細かく取ってくるのは素晴らしい。『ああ、あれはそういうことか』とニヤッとします。
母親の律子さんは音無老人に「お元気そうでなによりです」と言っていたので、去年のお墓参りの時に来なかったのは勿論、長いこと会っていなかったようです。このような何気ない一言でも状況に整合性が取れていて素晴らしい。響子さん曰く、去年は仮病を使って来なかったそうです。つまり、仮病を使ってまで惣一郎さんのお墓参りはしたくない、そこまで確執があったということです。
全ての会話ややりとりに整合性がとれているので、描かれていないけどその裏で色々物語があったんだろうなあと想像できる世界の広がりがあります。このあたりもめぞん一刻の世界が、本当にどこかにあるように錯覚させる理由の1つだ思います。
五代君七尾家に騙されて招待される
一方、今回のもう1つの話の軸は五代君がこずえちゃんの家に行くことです。
五代君はこずえちゃんに理由も言われず、ただ「ネクタイを締めて正装してきて」と言われただけです。普通は「なんで?」と聞きそうなものですが、五代君は特に聞かなかったようです。ちょっとお洒落なデートとでも思ったのでしょうか。このあたりの相手の言うことを素直に聞く五代君の性格は、のちのち伏線になってきます。こずえちゃんや響子さんの不意打ちキスがそうです。
『五代君は言われたまま理由も聞かずに従っちゃう人』との性格付けがこの頃からされているので、終盤の不意打ちキスも、五代君ならそうなるよなと説得力があります。こうやってキャラの性格ができていき、キャラが勝手に動くと言われるのでしょうね。
五代君は公園でこずえちゃんと待ち合わせの最中も、響子さんと折り合いの悪い両親が一緒にお墓参りに行くことで頭がいっぱいの様子。挙げ句の果てにはデートの約束なんてするんじゃなかかったと後悔していました。
基本的に皆さん五代君目線で物語を見ていると思いますが、こずえちゃん目線で見ると五代君酷いです。クリスマスプレゼントをいやいや渡したり、デートの待ち合わせ最中に他の女性のことを考え、あまつさえデートの約束をするんじゃなかったと後悔。こずえちゃん不憫…。
こづえちゃんの恐ろしい作戦
ネクタイを締めてきてと言ったこずえちゃんですが、その後メロンを用意し、住宅街をどんどん進み…。到着した先は自宅、つまり七尾家です。五代君に正装をさせ、五代君は手土産を持たせ、しっかりした人ですよと両親に紹介したかったようです。
ネクタイを締めてきて…まではわかります。しかし、手土産まで自分で用意して五代君に渡し、五代君から両親への手土産に見せる作戦には恐れ入ります。ネクタイを締めて正装をしたのも、メロンを手土産に持ってきたのも、五代君がしたくてしたわけではなく、全てこずえちゃんの言われるがまましただけです。しかし、両親から見れば『しっかり準備して挨拶に来た娘の彼氏』にしか見えません。
こずえちゃんはこんなことをするということは、本気で五代君のことを好きで付き合っているつもりだったのですね。その後も、弟の葉介にキスしたことあるか聞かれて「さあね」とぼかし、五代君に絡む葉介に、「あんたのお兄ちゃんになるかもしれない人なのよ」と言い…。
好きで付き合っているならともかく、仲の良い女友達程度の認識の女性にここまで言われるとちょっと怖いかも…。
音無老人は聖人
音無老人は要所で出てくるのですが、その度に聖人のようなお言葉を響子さんに掛けてくれます。今回はその最たる例で、響子さん自身のために惣一郎のことは忘れなさいと言っていました。自分の息子が死んで2年でこれを言えるのは凄い。
音無老人「未亡人、まだ死んでない妻ってことだよね。でも違うだろ?死んでないのじゃない。生きてるんだ。」
この音無老人の言葉は、めぞん一刻の中で出てきた言葉でトップ3に入るくらい強烈に印象に残っています。
私は連載が終わってからめぞん一刻の漫画を一気読みしました。その後アニメがあることも知ったのですが、当時は確かレンタルビデオ屋にTVアニメのめぞん一刻はなかったと思います。近くのレンタルビデオ屋に、めぞん一刻が置いてあるか電話を掛けまくった記憶があります。
市販のビデオはあったと思いますが、その当時私は中学生でお金がなく、購入する金銭的余裕なんて当然ありませんでした。そこで見付けたのがレンタルビデオ屋にも置いてある『めぞん一刻 総集編 ~移りゆく季節の中で~』です。その後しばらくして、TVアニメ版もレンタルビデオ屋にも置くようになったのですが、それまではこれでアニメのめぞん一刻を我慢するしかありませんでした。
このOVAのOPがこの第24話の音無老人の談話から始まりました。このような理由でこの音無老人の言葉は物凄く印象に残っています。この総集編は今見ると時系列がかなりシャッフルされているので少し分かりづらいです。そもそも96話のアニメを2時間に収めているので正直かなり無理があります。
総集編はダイジェストだとわかってはいても、それでもダイジェストどころの話ではなく、継ぎ接ぎのシーンばかりがマッハで進んでいきます。
総集編の話から本編に戻って…、響子さんの両親はこの機会に再婚の話を持ち出そうとしたようですが、音無老人自ら響子さんに同じようなことを勧めたことに驚いていました。響子さんは自分がどうしたら良いのかわかるまでは惣一郎さんの性を名乗っていたいとか。
血の繋がりはなく、息子の惣一郎さんと響子さんは半年しか結婚生活をともにしていないので、期間的にはそれほど関係は濃くないはず。高校を出て20になるのを歳を待って結婚。そこから半年で惣一郎さん事故死ですからね。それなのに、ボロアパートとは言え、東京のアパートを一軒任せているので面倒見が非常に良いです。言葉だけではなく、行動自体からも音無老人が聖人だと感じます。
七尾家の圧力
こずえちゃんの父親には「誠意あるお付き合いを頼みますぞ」と言われ、母親には「こずえはまだねんねですから」と言われ、どうもこの時点で正式に付き合っていると思われ、許しも得たようです。家族公認になってしまいました。
その後こずえちゃんの部屋に行った五代君ですが、そこでこずえちゃんは完全に結婚前提のお付き合いだと思っている様子が描かれていました。結婚は家族同士も大事、両親とのお見合い、両親と上手くやっていけるかなどなど怖すぎる発言が…。ただ、五代君もこずえちゃんのペースに流され、いちいち質問に答えますし考えてしまっています。響子さんがいなければ、このこずえちゃんのペースに巻き込まれてそのまま結婚していたのでしょう。
ここでは珍しくこずえちゃんからキスを要求。キスくらいなら…と思う五代君。しかし、この先を想像したところ、キスをしたら、あの両親が押しかけてきて結婚を迫られると危機感を抱き回避。
昔、めぞん一刻のゲームがPCエンジンで出たのですが、このシーンも収録されていました。しかも、この選択肢でこずえちゃんとキスをすると、五代君の想像通り両親が部屋に入ってきて銃を突きつけられ結婚。そしてバッドエンドでゲームオーバーとの流れでした。こずえちゃんとの結婚がゲームオーバーって…。つくづくこずえちゃんの扱いが可愛そうです。
響子さんと律子さんは似たもの同士
どうしても響子さんのことが気になる五代君は、夕方には返ってくるとの言葉を思い出し、こずえちゃんの家から時計坂駅へ急ぎます。
五代君は自分にはなにもできないけど…と駅で響子さんを待つのですが、出てきた響子さんと両親は、通行人皆が振り返るくらいの大声で喧嘩をしており、五代君が話しかけるもタイミングが掴めなかったりして話には入れません。
一般的な話の展開だと、主人公がなにもできないけど助けに行くと言うときは、大抵そんなことはなくなんかしら役に立ちます。しかし、この五代君は役に立たないだろうなと思いつつ行って…本当になんの役にも立ちませんでした、との笑いもあります。
五代君は先ほど七尾家で、結婚後の相手方両親と上手くやっていけるかを考えていましたが、この状況を見て入り込む余地がないと呆然としてしまいます。結婚しても五代君は大変なことになりそうだなあとクスッとさせて終了。
響子さんは律子さんと対立していますが、同レベルで同じようなテンションで喧嘩をしているので…似ていますよね。
原作漫画では
総評
前回2話に続き、今回も響子さんと両親の話でした。アニメでは3話連続で響子さんと両親の関係が描かれたことになります。この3話で完全に響子さんと両親の特殊な関係や、それぞれがなにを思っているのか、どういう性格なのかが把握できました。
めぞん一刻は準レギューラクラスのキャラですら、こんなにも強烈な個性があるのには驚きます。そもそも主人公やヒロインの両親を描かないラブコメも少なくありません。それをただ描いただけでもきちんとしています。しかも、ただのおっちゃんとおばちゃんの両親で美形でもなんでもないのに、キャラがここまで立っていることには驚きます。たった3話描いただけでこれです。響子さんの両親も素晴らしいキャラです。
響子さんvs両親の対立は、亡くなった夫のことで確執があるので、本来ならどんより暗い話になってもおかしくないのですが、めぞん一刻の作風通り、この対立はいつも面白くなります。
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