ガンダム史上一番のヒューマンドラマ「機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争」レビュー

あらすじ

機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争

宇宙世紀0079。ジオン軍の特務部隊「サイクロプス隊」が、連邦軍北極地を襲撃した。

 

目的は新型ガンダム・アレックスの奪取。だがアレックスは間一髪のところで破壊を免れ、サイド6 へ向けて飛び立った後だった。

 

サイド6に住む少年アルは、初めてのモビルスーツ戦を目撃することになる。やがて、撃墜されたザクを追うなかで、ザクのパイロット・バーニィと出会う…。

 

1年戦争末期の物語

この「機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争」の話をもう少し補足しておくと、時代設定は1年戦争末期の宇宙世紀0079年12月中旬です。1年戦争が1月1日に終戦するので、終戦約2週間前ですね。そんな戦争が終局を迎える中、ジオンの特殊部隊サイクロプス隊は、連邦の新MS「アレックス」を、北極基地から強奪する作戦を敢行するものの失敗します。

 

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その後、アレックスがサイド6に運ばれたとの情報をキャッチしたサイクロプス隊は、変装してコロニーに侵入。このサイド6で繰り広げられるアレックス争奪戦が、この機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争です。

 

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ガンダムの中で最も泣けるシリーズ

非常に今更ではありますが、先日久しぶりに見たので、折角ですし自分が見た感想の記録として、この機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争のレビューを書いておきます。

 

まずこのガンダムですが…泣けます。本気でボロボロ泣けます。まさかガンダムで泣かされるとは思いませんでした。ガンダムはワクワクするとか格好良いとか、泣く方向に行くとしても、ジーンと感動する程度で収まっていたのですが、これは普通に泣いてしまいました。これはガンダムと言うシリーズだけの範疇ではなく、またアニメの範疇も超え、ドラマや映画などあらゆる物語の中で見ても、かなり良質な泣ける話です。私はガンダムが大好きなのでフラットな見方はどうしても出来ず、多少評価を盛ってしまうので、ガンダムを全く知らない人が見て同じ感想になるかと言えば、多分違うとは思いますけどね。

 

そしてこの0080はたった6話のOVAなのですが、このったた6話の間に、連邦とジオンの戦闘、対立構図、ミッション。そしてアルの成長が濃密に描かれています。なんと言ってもアルの成長が見所で、最初と最後では随分成長していることが見て取れます。

 

ちなみにこのポケットの中の戦争という意味は、サイド6のごく一部の基地周辺でのみ繰り広げられた局地的戦闘だったため、あまりにも小さい戦争であること、そしてほとんどの人が知らない(外からは見えない)ことをポケットに例えたものでしょう。

 

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ここにも涙を誘う要素があります。何人もが命を賭け、そして死んでいった戦いなのですが、それは戦局に微塵も影響せず、それどころかほとんどの人に知られない、ほとんどの人が知らない(ポケットの中で外からは見えない)戦争だったんです。一体この戦争はなんだったのか。何のために命を賭けて戦ったのか。そんな虚しさも感情にグサッと突き刺さってきます。

 

戦争物ではこの「戦争の虚しさ」、「戦争の意味のなさ」を表現する手法は古今東西あるのですが、アニメガンダムでここまでそれをダイレクトにやってきたことに驚きました。

 

戦闘シーンは少ない

この0080は、ガンダムの魅力のひとつでもあるMS同士の戦闘シーンが少ないです。0080は間違いなく名作なのですが、逆に好きじゃない人も多いガンダムでもあります。好きじゃない人の場合、このように「ガンダムらしくない」ことが、0080を好きじゃない理由のひとつとして挙げるんじゃないでしょうか。とは言っても、その数少ないMSの戦闘シーンのクオリティが非常に高く、動きも滑らかで、出てくるMSも非常に格好良いです。少ないながらも濃厚な戦闘シーンだと個人的には思っています。

 

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ガンダム好きの間では、特に実弾武器が豊富なケンプファーの人気が高いみたいですね。その他にもハイゴッグズゴックEなんかももの凄く格好良いです。

 

 

最初はアルが鬱陶しかった

主人公のアルはいわゆる糞ガキです。相手の気持ちを考えず、心の内にズカズカ土足で入ってくるわ、仕事しているところに邪魔しに来るわ、自分が相手にして貰えないと、嘘を付いてまで気を引こうとするわ…。非常に鬱陶しい子供です。逆に言えば子供をよく表現しているとも言えるのですが…。最初見たときはこのアルの鬱陶しさがずっと続くのかと思い挫折しそうになりました。

 

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ところが上手いのは、子供の鬱陶しさや相手の気持ちを察知出来ないこのアルの言動が、時がたち仲良くなるにつれ、鬱陶しくなくなってくるんです。いやまあ…正直鬱陶しさはあるのですが、アルが本気で相手のためにと思ってやっていることだとわかるので、見ていて「許容出来る」ようになってくるんです。

 

アルも含め子供全般に言えますが、別に嫌がらせでこういったことをしているわけではなく、子供特有の構って欲しかったり、仲良くしたい気持ちに正直な言動なだけなので、仲良くなり相手を助けてあげたいとの気持ちもまたストレートなんです。この鬱陶しさから子供らしい純粋な気持ちへと見せ方が変わっていく様は自然で上手かったです。

 

アル自身の動機や言動は特に変わったわけではないのですが、「鬱陶しいアルは実は相手に構って欲しい純粋な気持ちだった」との動機が見ている物に届くんです。

 

戦局を左右するのはただの子供

そしてこのアルの相手を助けたいと思ってする行動が、この0080の話を大きく動かしていきます。この部分も興味深くて、連邦でもジオンでもなく、MSにも戦艦にも一切乗らない、一市民のただの子供が、連邦やジオンの行動に影響を及ぼし、果てはコロニー全体の命運まで左右してしまうんです。戦局を左右したのは、有能なパイロットでも高性能なMSでも緻密に練られた作戦でもなく、ただの子供でしかないアルなんです。

 

いわゆる巻き込まれ型の典型なのですが、この主人公のアルはMSに乗りません。普通巻き込まれ型の話は、巻き込まれた主人公がMSに乗ったり、武器を手に取って戦ったりと、そこでドラマが繰り広げられ、葛藤しながら成長していくのですが、この0080では主人公のアルは最初から最後までただの子供でしかありませんでした。MS同士の戦闘が少ない特異なガンダムについては前述しましたが、アルが最後までただの無力な子供であることも、また他のガンダムと違う大きな部分でもあります。この二つの要素によって異色作になっているんです。そしてこの異色作を好むか嫌うか…二極化するわけです。

 

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察して下さい

0080は言葉で説明したり、登場人物がわかりやすく動いて今の状況や心情を丁寧に説明はあまりしてくれません。何気ない仕草だったり感情の起伏で、今どう言う状況なのか、何を思っているのかなど「察して下さい」的表現が少なくありません。

 

実はこれはアニメに限らず諸刃の剣なんですよね。「皆まで言わずともわかるよな?」的演出なので、分からない人はわからないまま見終わってしまいます。こういう人にとっては頭に「?」が残る物語になってしまい、全てを楽しめないかもしれません。制作する側としても、せっかく大変な思いをして作品を世に出すのですから、伝わらなかったら「損」ですからね。0080は細かく説明しても良いのですが敢えてそれをせず、察して下さい的演出が見られます。

 

この察して下さい演出には勿論メリットもあって、それは細かく見ていないと分からなくなるので、「必死で物語を見ること」と、観客が「自分でわかった達成感が得られること」です。

 

前者はどこに話のキーが埋まっているのかわからないので、画面から目を離せないこと。そして後者は、きちんと見ていないと分からないことなので、「自分は今の意味や心情わかったぞ!」との、パズルのピースが填まっていくような達成感があることです。とは言え、別に分かりづらく埋め込んでいるわけではないので、普通に見ていれば誰にでも分かるのですが、それを上手く「もしかしてこれをわかった俺って凄くない?」と思わせてくれるので、「なるほどそういうことか」と納得してニヤッとしてしまうんです。

 

このパズルのピースが填まっていくような達成感は、サスペンスやタイムトラベル物ではよくあるのですが、この0080でも登場人物の心情や今の状況を読み解けたとの達成感があります。

 

ガンダムと言えるのかどうか

0080の話題でよく出るのが「これはガンダムなのか?」ということです。確かにその通りで、これは別にガンダムをテーマにしたガンダムの舞台でやる必要はないと言えばないんです。ガンダムではなく現代の軍の話でも出来ますし、またロミオとジュリエットのような名家の対立でも同じような話に出来るでしょう。それくらい人間ドラマに特化しているので、ガンダムファンの間では評価が分かれる作品でもあります。

 

しかし評価が分かれるということは、自分にはまれば満点が出る可能性があるわけで、見ておいて損のないガンダムだと思います。特に普通の実写映画が好きな人、中でも感動する映画が好きな人ははまれる要素がありますし、なおかつそれに加えてガンダムシリーズが好きなんて人は、ばっちりはまる側だと思います。

 

ちなみに、ガンダムの戦闘シーンが好きな人や、ミリタリー、戦争物としてガンダムを見ている人の場合、最適なのは0083だと思います。こちらは最悪なヒロインがいるのでまた論争になるのですが…。0083もまた機会があったらレビューします。ヒロインが最悪で胸糞の悪い話なのですが、それでも非常にクオリティが高く面白いガンダムなんです。

 

 

バーニィとクリス

この項目は重要なネタバレを含みます。まだ見ていない人でこれから見ようと思っている方は読まない方が良いと思います。

 

さて、ネタバレ全開でバーニィとクリスについて感想を書いていきます。

 

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結局バーニィとクリスは、お互い戦っている相手がクリスであり、バーニィであることを知らないままバーニィは死に、クリスは転属して行ってしまいました。勿論視聴者はバーニィとクリスがお互いに戦っていることを知っているのですが、段々とアルが気付いていく様がドラマチックで、ぐいぐい引き込まれました。見ていて「早くわかれよ!」と思ったり、「わかったらどうやって止めるんだよ…」と思ったり、この先どうなるのか気になって気になって仕方がありませんでした。そして足音を立てて着実にバッドエンドに近付いていく感じ…。

 

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バーニィが捨て身の特攻を掛ける前に、いくつかバッドエンドを回避する選択肢はあったんです。サイクロプス隊が自分以外全滅してしまった時点で、任務遂行不可能と判断し離脱も出来ました。また、サイド6に核ミサイルが撃ち込まれるのを知ったときも脱出することが出来ました。ところがこれまでのアルとの交流や会話で、ことごとく悪い方へ悪い方へと話が進んでしまいました。なにか一つでもここで、良い意味でのボタンの掛け違いがあれば、バッドエンドを回避出来たんですけどね。

 

そして何より衝撃的で虚しさが大きかったのが、サイド6に撃ち込まれるはずだった核ミサイルを積んだジオンの艦が直前で拿捕されたこと。バーニィがサイド6に残って、アレックスを破壊しようとしたのは、サイクロプス隊がアレックスの奪還、破壊に失敗したからであって、アレックスの奪還、破壊が成功すれば、サイド6に核ミサイルを撃ち込む必要がないんです。そのため、バーニィはサイド6が核ミサイルで攻撃されることを防ぐためにも、1人で作戦続行を決めたのですが、バーニィがアレックス破壊作戦を開始してから、核ミサイルが撃ち込まれる心配がなくなるという最悪のすれ違い劇。ここにも戦争の虚しさが表れています。

 

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真実を知っているのは世界中でアルだけ

この項目は重要なネタバレを含みます。まだ見ていない人でこれから見ようと思っている方は読まない方が良いと思います。

 

この物語の何が一番悲しいのかと言えば、勿論バーニィの死亡や、クリスが自らの手でバーニィを殺してしまった事などもあるのです が、やはりなんと言っても私は、「この顛末の真実を知っているのはアルだけ」という事です。

 

クリスとバーニィが「良い感じ」だったこと。アレックスのパイロットがクリスであること。ザクのパイロットがバーニィであること。クリスもバーニィもお互い誰と戦っているのか知らない事。そしてクリスがバーニィを殺してしまったこと。

 

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これらの断片は他の人も知っている場合があるのですが、断片を全て繋げられるのはアルだけであり、全てのパズルのピースを組み立てられたのも世界中で、いや宇宙中でアルだけなんです。

 

この話は凄く上手いです。感心するほかありません。これだけ至る所にパズルのピースが落ちていて、それぞれは他の人も別々に見ているのですが、完成したパズルを見られたのはアルだけなんです。そしてそのパズルが組み上がり、最悪のエンディングを回避しようとしたときには既に遅すぎました。このパズルは戦闘に参加したジオンや連邦ですら見られていないんです。見られたのは本当にアルだけだったんです。

 

また、クリスが負傷するものの生き残り、サイド6から地球へ転属していく際、アルはクリスに真実を告げる事も出来ました。しかしアルはそれを敢えてしませんでした。物語が始まってすぐの相手の気持ちを考えない、いわゆる糞ガキだった頃のアルなら、喚き散らしながらこのことを告げていたでしょう。しかしアルはここでバーニィを殺したことをクリスに告げれば、クリスは傷つき悲しむだろうと思い、自分の胸の中に仕舞いました。これがアルの成長の一つの描写です。このアルの成長も特に説明やわかりやすい動きがなく、ただクリスを黙って見送るだけの、前述したアルの気持ちや成長を「察して下さい」との演出です。くどい描写はいらないんです。ただ何も言わずにクリスを見送る。たった数十秒の中にこれだけの物語や感情、思惑が詰まっているんです。

 

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そしてもう一つ。最後に戦争で壊れた小学校の校舎を背景に、校庭で全校集会が開かれているシーン。アルはいつもの日常に戻っていくのですが、先生がこの戦争について触れたとき、思いが込み上げて泣いてしまいます。それを見たいつも喧嘩していた女友達は、「どこか痛いの?」と声を掛け、戦争を非現実のイベントとして楽しんでいた男友達は、アルがイベントの戦争が終わってしまったことを悲しんで泣いたと勘違いし、「また戦争が来るよ!」と慰めます。その子供らしい純粋な友人の言動とはよそに、アルは誰にも言えない、言ってはいけない、そして言ったところでどうにもならないとても重い物を背負ってしまったんです。この周りの子供らしさと、アルの背負った物の重さの対比がなんとも言えず涙が込み上げてきます。

 

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更に最後はアルの上空から校庭全景、町全景、そしてサイド6からも遠ざかっていく景色を見て、「ああなんて小さい戦争だったんだろう」と感じるんです。

 

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何人もが命を掛けて戦った戦争が、いかにちっぽけで戦局に影響を及ぼさなかったのか。この虚無感から来る感動、涙。素晴らしいガンダムだと思います。

 

蛇足ですが、エンディング曲の最後に、「A HAPPY NEW YEAR!」との横断幕を持つアルと友達の写真が出るのですが、これは状況的に考えると、バーニィが死んだのが12月25日なので、それから約1週間後の写真ですね。単なる新年の記念撮影なのですが、そう考えると感情に訴えるものがあります。

 

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「面白い」と「楽しい」は違う物と以前書いたことがあるのですが、この0080もその典型で、無茶苦茶面白いのですが楽しい(ハッピー)とは違います。また、物語はこれを両立させれば最高かと言えばそんなこともなく、「面白い」けど「悲しい」「切ない」。そんなお話でした。アニメガンダムの枠に捕らわれず、戦争物としてとてもクオリティの高い物語だと思います。

 

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