今回レビューするのは、エルトン・ジョンの半生を描いた『ロケットマン』です。
勿論、エルトン・ジョンの名前は知っていますし、曲も数曲有名なので聞いたことがあります。しかし、その人となりやパーソナリティーについては全く知りません。特にファンでもありません。アルバムも買ったことはありません。そんなエルトン・ジョンに付いてろくに知らない人間がこの映画を観てどう思ったかのレビューです。
それでは早速レビューを書いていきたいと思います。
未見の人が知らない方が良いネタバレについては、このようにオレンジ色のマーカーで、ネタバレの始まりと終わりを注意します。重要なことを強調する黄色のマーカーとは別なのでご注意ください。
目次
あらすじ・解説
イギリス郊外ピナー。家に寄りつかない厳格な父親と、子供に無関心な母親。けんかの絶えない不仲な両親の間で、孤独を感じて育った少年レジナルド・ドワイト。唯一神に祝福されていたのは彼の才能――天才的な音楽センスを見出され、国立音楽院に入学する。その後、寂しさを紛らわすようにロックに傾倒する少年は、ミュージシャンになることを夢見て、古くさい自分の名前を捨てることを決意する。新たな彼の名前は「エルトン・ジョン」だった。
3点要約
- エルトン・ジョンの半生
- ミュージカル要素強し
- 名曲でテンション上がる
揺さぶられる感情
- 感動
- 興奮
- 愛
長所と短所
- △良くも悪くも『ボヘミアン・ラプソディ』の二番煎じ
- ○サクセスストーリー特有の高揚感を感じられる
- ○友情の素晴らしさがわかる
- ○道化を演じなければならない哀しさ
- ○名曲でテンションが上がる
- △ゲイの話が結構濃厚
- △ご存命なので終わり方がやや中途半端
スタッフ
- 監督:デクスター・フレッチャー
- 製作:マシュー・ボーン 、 アダム・ボーリング 、 デヴィッド・ファーニッシュ 、 デイヴィッド・リード
キャスト
- エルトン・ジョン:タロン・エガートン
- バーニー・トーピン:ジェイミー・ベル
- シーラ・フェアブラザー:ブライス・ダラス・ハワード
作品データ
- 原題:ROCKETMAN
- 製作国:イギリス=アメリカ
- 配給:東和ピクチャーズ
- 上映時間:121分
動画
https://www.youtube.com/watch?v=OfDUodF0j9E
感想
△良くも悪くも『ボヘミアン・ラプソディ』の二番煎じ
『ボヘミアン・ラプソディ』の制作総指揮に入っているデクスター・フレッチャーが監督を務めています。そのため、ミュージシャンの人生をダイジェストで追ったストーリーや、各所にかかる名曲や盛り上げ方など、ボヘミアン・ラプソディによく似ています。良くも悪くもこの二番煎じ的映画と言って差し支えないと思います。
『良くも』と言うのは、実在のミュージシャンの人生を追ったストーリーと音楽が旨く融合しているところ。これはボヘミアン・ラプソディのノウハウが生きていたようでツボを抑えていました。
『悪くも』と言うのは、やはりどうしても先行したものにインパクトや新鮮さでは勝てないこと。フレディ・マーキュリーの人生を描いた衝撃的な傑作を先に皆経験してしまっているので、同じコンセプトの映画をやられても1発目の感情の高ぶりはありませんでした。
○サクセスストーリー特有の高揚感を感じられる
ボヘミアン・ラプソディでもそうでしたが、子供時代や無名時代から話は始まり、段々と有名になっていく様、そして頂点に立つまでを描くので、ボクシングもので無名から世界王者になるまでを見ているようなサクセスストーリーを見ることができます。このような成功の階段を駆け上がっていくストーリーは個人的に大好きです。
しかし、映画の2時間程度に凝縮されてしまっているので、やはりダイジェスト感は否めません。始まって1時間後には頂点まで駆け上がっています。サクセスストーリーの高揚感を得るためには本来2時間では足りません。連続ドラマや漫画、アニメなどじっくりできるメディアが最適です。とは言っても、音楽学校に入り、バックバンドをやり、作曲をして売り込んで、そこで認められて…などの流れは順を追ってきちんと描かれています。
この映画はエルトン・ジョン本人が制作に関わっているので、ストーリーは本人が語ったところによるのですが、一方だけの話なのでどこまで本当なのかは少し疑問もあります。エルトン・ジョンが付き合った男性で酷い人間も描写されているのですが、あくまで一方の見方ですからね。夫婦喧嘩も両方の言い分を聞かないと本当のところはわからないわけで…。
父親は家に寄りつかない冷酷な人物と描かれています。しかし、父親がその後に別の女性と間にもうけた子供(異母兄弟)が、実際の父親はあんなではなかったと反論するニュースがありました。
制作スタッフもこれに関してコメントを発表しており、「これはミュージカル風のファンタジーとして描いたエルトンの人生です。我々の目的はエルトン・ジョンや彼の創造性、想像力、驚くべき可能性を祝福することで、彼が生を受けたモノクロの世界を祝福するものではありません」とのこと。あくまでエルトン・ジョンから見た世界をミュージカル風に描いた映画との立ち位置です。
そして…ボヘミアン・ラプソディでもそうでしたが、頂点を極めると天狗になり、横暴になり、周りの言うことを聞かなくなったり、酒、ドラッグ、セックスに溺れ…なんで、ミュージシャンあるあるの転落劇も描かれます。何故ミュージシャンはこうなるのか…。
○友情の素晴らしさがわかる
エルトン・ジョンにはバーニー・トーピンという生涯の友人がいます。どのように出会ったのか全く知らなかったので、出会い方にはビックリしました。たまたま売り込みに行った音楽会社で、ランダムに選ばれて適当に「じゃあ取り敢えずこれに曲付けてみて」と渡された歌詞の入った封筒が、その後生涯の友人で仕事のパートナーとなるバーニー・トーピンの物だったなんて…。これが運命か…と観ていて思いました。
そして、バーニー・トーピン役のジェイミー・ベルが無茶苦茶格好良い。役者の顔が良いだけではなく、その後のエルトン・ジョンとの関係も面白いし素晴らしいです。エルトン・ジョンはゲイをカミングアウトしているのですが、バーニー・トーピンはノーマルなので、キスされそうになっても断ります。その時も紳士的で、馬鹿にしたり嫌悪感をあらわにせず断っています。その後ずっと友情が続くのも素晴らしい。エルトン・ジョン曰く、(大きな)喧嘩をしたことは1度もないとか。
成功したミュージシャンあるあるで、エルトン・ジョンも酒にドラッグに女…ではなく男に溺れるのですが、そんな険悪なときを経てもまだ友情が続いています。と言うか、バーニー・トーピンが聖人過ぎると言うか…。エルトン・ジョンから見た世界の話なので、いかにバーニー・トーピンに悪いことをして、そして大きな心で許してくれたのか、本人が1番感じているのでしょうね。
最も印象的だったのは、バーニー・トーピンがエルトン・ジョンに、「無理して虚像の派手な自分をショーアップするのをもうやめたらどうだ?」とアドバイスするのですが、それに切れたエルトン・ジョンが「お前は歌詞だけ書いてれば良いんだよ!」と切れるシーン。そこですぐに言いすぎたと思ったエルトン・ジョンは「Sorry」と言うのですが、それに対してバーニー・トーピンは「I Know」と。「わかってるよ」と。お前の苦悩や葛藤、大変さ、気持ちはわかっているよと、全てこの「I Know」の中に入っているんです。友情って良いなあ…。
○道化を演じなければならない哀しさ
ボヘミアン・ラプソディ以上に際立っていたのが、舞台裏とステージ上では切り替えて道化を演じなければならない哀しさ、切なさ。
舞台裏でステージに出る直前までバーニー・トーピンと口論していようが、そこから数歩先のステージ上では笑顔で変な衣装でおもしろおかしく観客を楽しませないといけない。そんな自分を無理に演じている哀しさ…。また、悪徳なマネージャーと契約してしまったため、どんなに体調が悪かろうがステージに立たなければならず…。
ボヘミアン・ラプソティの制作総指揮に入っている人が監督をやっているので、かなり似通った映画になっているのですが、違いを挙げるとすると、この舞台裏で辛いことがあろうとステージ上で道化を演じなければいけない哀しさ。前述したバーニー・トーピンとの友情。そして、もう1つは後述しますが、ミュージカル色が強いこと。この3つでしょうか。
○名曲でテンションが上がる
ボヘミアン・ラプソディよろしく、このロケットマンでも各所に誰しも知っている名曲がかかります。『YOUR SONG』なんて誰でも聞いたことありますよね。
曲が上出上がる順番が時系列と少し違う気がしますが、まあそこは演出上の問題ということで。このYOUR SONGが上出上がる瞬間の映像は鳥肌が立ちました。勿論、映画の中での再現VTR的なものではあるのですが、世界的大ヒットの上出上がる瞬間を見られた感激。
このほか、エルトン・ジョンの名曲が各所に掛かるのですが、少し予想外だったことがミュージカル色が強かったこと。突然エルトン・ジョン役の子供や、大人役のタロン・エガートンが派手に踊り出し、通行人やレストランの客、ウェイターが踊り出すという…。ミュージカルは嫌いではないのですが、ボヘミアン・ラプソティのエルトン・ジョン版と思って観たので予想外でした。
前半はラ・ラ・ランドド並にミュージカル色が強かったのですが、後半はシリアスな話になるからか、ミュージカル色は抑えめになりました。
ミュージカルは苦手な方もいると思いますが、実際に生で見ると迫力が凄いです。今回も映像の中でのでき事ですが、一糸乱れぬ団体の動き。ノーカットで流れる計算され尽くした動き。音楽に合わせた格好良い振り付けなど、見ていて引き込まれてしまいました。集団美が凄いです。
△ゲイの話が結構濃厚
ボヘミアン・ラプソディもフレディ・マーキュリーがゲイで、男性ののキスシーンもあったのですが、あってもこれくらいで描写としては抑えめでした。しかし、ロケットマンは激しく抱擁してベッドの上でウキウキなんてシーンもあり、口で…のようなことがわかりやすいシーンもありました。家族向けではありません。
エルトン・ジョン本人がストーリーに関わっているので、このようなことも開けっぴろげに描写して良いと了承したんですね。
△ご存命なので終わり方がやや中途半端
ボヘミアン・ラプソディはフレディ・マーキュリーが亡くなっているので、物語の描き方は人生最後まで描ききることができて着地点が分かりやすかったです。太く短い人生を激しく生たその生き様を観ろ…と。
一方、エルトン・ジョンはまだ元気で、これから男性のパートナーとともに、子育てに専念するのでツアーを引退するとのこと。物語の締め方としてはやや中途半端な感じがしました。ただ、まだ存命でこれから第二の人生を歩くとの終わり方も悪くはなかったです。
総評
世界的に有名なミュージシャンの人生を垣間見られて面白かったです。ただ、客観的視点から描かれたわけではなく、あくまでエルトン・ジョンから見た世界、エルトン・ジョンが語った話を元に創作したものなので、そこだけは念頭に置いておいた方が良いかもしれません。
ラ・ラ・ランドほどミュージカル色は強くはないので、ミュージカルが苦手な方も問題なく楽しめると思います。前半は多めですが後半は大人しくなります。個人的にはミュージカルとストーリーの融合がちょうど良かったです。ミュージカルの音楽だけではなく、集団の動きの美しさ、ピッタリ合った気持ち良さもありました。
さすがに半生を描いて興業が成り立つほどのミュージシャンはそれほどいないと思うので、今後このジャンルが出てくることはあまりないと思います。折角なので話題になったボヘミアン・ラプソディとこのロケットマンを観ると楽しいですよ。フレディ・マーキュリーもエルトン・ジョンもそれほど知らなくても1つの映画として、架空の話として十分に楽しめると思います。
こんな人にお勧め
- エルトン・ジョンが好きな人
- 世界的ミュージシャンの人生を見たい人
- ボヘミアン・ラプソディが好きな人
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