今回レビューするのは、めぞん一刻の第3話です。
思うところがあり、今回アニメ全話レビューの大幅な加筆修正に着手します。
それでは早速レビューを書いていきたいと思います。
先の展開のネタバレについては、このようにオレンジ色のマーカーで、ネタバレの始まりと終わりを注意します。重要なことを強調する黄色のマーカーとは別なのでご注意ください。
目次
あらすじ
共通1次試験を明日に控えた五代君。最後の追い込みで勉強しようとするのですが、一刻館の住人はそれを許してくれません。響子さんは五代君の邪魔をしないように注意するのですがのれんに腕押し。全く効果がないどころか逆効果になってしまいます。それでもなんとか夜に勉強できる環境になるのですが、今度は一刻館が停電。修理に向かう五代君と響子さんは暗闇の屋根裏で2人きりに…。
みどころ
- とことん五代君の邪魔をする住人たち
- 初登場の屋根裏
初登場人物
- 坂本
- 小林
感想
共通1次試験直前の五代君
今回は五代君が大学受験に向けた共通1次試験に望む話です。当然、一刻館は受験生にとって最悪の環境なのでマトモに勉強できるはずもなく、今回も一刻館住人に色々邪魔されてしまいます。
共通1次試験はもうだいぶ前の制度なので、今の人にはピンと来ないかもしれません。その後センター試験へと代わり、また来年の2021年から新制度へ移行します。この辺りの制度や名称なんかも時代を感じさせます。
大学共通第1次学力試験(だいがくきょうつうだいいちじがくりょくしけん)は、1979年1月13・14日から1989年1月14・15日までの11年間11回にわたり、すべての国公立大学および産業医科大学の入学志願者を対象として、全国の各会場で共通の試験問題により一斉に実施された基礎学力試験。「共通一次試験」や「共通一次」とも呼ばれた。実施責任者は、国立大学の共同利用機関であった大学入試センター(現在は独立行政法人)。
うる星やつらネタ
今回、第1話に続いてうる星やつらのあたる、メガネ、しのぶの園児が登場。
五代君の部屋にうる星やつらのラムちゃんのポスターもありました。
五代君の男友達
今回、五代君の男友達として坂本と小林が登場しました。作中に登場する五代君の名前のある男友達は、この坂本と小林だけです。実はここからめぞん一刻の特殊性が垣間見えます。
響子さんとの恋愛模様や、一刻館住人とのドタバタ劇、三鷹さんとのライバル関係などに重点を置いた物語とは言え、これって結構極端ですよね。めぞん一刻はいらない話と言うか、一刻館以外の話は大胆にカットしています。
当然、五代君にも大学生活があったわけで、そこで他に友人もいたでしょう。そこで話を広げることも可能だったのですが、人形劇クラブのことくらいしかやりませんでした。めぞん一刻はあくまで一刻館を中心とし、その周辺の話だけピックアップした物語です。この描かれる世界の狭さも実は結構珍しいです。
映画の『バック・トゥ・ザ・フューチャー』もそうです。タイムマシーンは世界をひっくり返せる設定なのに、世界規模の話は一切ありません。なにを描いたかというと、マーティの家族、ライバルのタネン家を中心とし、ヒルバレーの街から出ていません。そのおかげで世界を広くしてしまうと出る矛盾や荒さがなく、細かい伏線や丁寧な描写ができました。
どちらが先かという話ではなく、めぞん一刻とバック・トゥ・ザ・フューチャーの手法は似ています。めぞん一刻は基本的に一刻館を中心とした狭い世界の話しかしていません。限られた登場人物との濃密な関係を描いたことにより、世界は狭いですが物凄く深い世界になりました。
横道それましたが、漫画だとこのとき一緒にいた友人は予備校の名無し2人でした。アニメはここを坂本と小林に変更。
この喫茶店でのなにげない会話も実にめぞん一刻です。ここにも重要なキーワードが入っていないことによる誤解と、誤解したまま話が進む面白さがあります。
五代「まだ(管理人さんに)なにもしてないんだよなあ」
坂本「お前まだ(試験勉強)なにもしてないのか?」
五代「ああ、まだ(管理人さんの)手も握ってない」
小林「ん?」
坂本「お前、なんの話してるんだ?」
五代「なんのって、管理人さんに決まっとるだろうが、まだなにもしてないと…」
坂本「なに考えとんじゃ」
小林「またライバルが1人消えた」
この会話の場合、坂本と小林は「(試験勉強を)なにもしていない」と言っているのに、五代君は「(管理人さんに)なにもしていない」と、お互い言っていることが違います。ところがお互い違和感なく話が進んでしまいます。そして最後に「え?」、「ん?」、「どういうこと?」となって落ちます。このような細かい会話の齟齬が、めぞん一刻は数え切れないほど出てきます。
この会話の面白さの凄いところは、漫画だと数コマ、アニメだと数十秒で表現してしまっていること。ダラダラ4分も5分も続きません。コンパクトにまとまっており、会話の応酬4,5回で面白さをギュッと凝縮してしまっているところです。
真面目×不真面目さの面白さ
五代君も響子さんも基本真面目です。そして、当然その他の一刻館住人である一の瀬さん、四谷さん、朱美さんは超が付くほどの不真面目です。そして、この対になる二者が絡むことによる面白さも今回発揮されていました。
真面目な響子さんは、明日の共通一次試験に向けて勉強する五代君を邪魔しないように、四谷さんと朱美さんに釘を刺しに行くのですが、のれんに腕押しよろしく、なにを言っても逆効果になります。
あられもない姿で五代君の前をうろつかないように朱美さんに注意するも、その注意されているスケスケのネグリジェでいる朱美さんをマジマジと見てしまう五代君。
四谷さんにも注意しに行くのですが、時既に遅しで、五代君の部屋に四谷さんが出現。真面目な響子さんや五代君が一刻館住人と絡み、良いようにオモチャにされる様もめぞん一刻の様式美です。
朱美さんはスケスケのネグリジェと言うか、「それ着ている意味あるの?」レベルの透明に近いものを着ていますが、恥ずかしいとか一切ないのでしょうか。
四谷さんは四谷さんで、響子さんが四谷さんを注意しに行ったら部屋におらず、勉強する五代君の背後から忍び寄り目隠しのいたずらをしていました。こちらもこっそり五代君の背後にまで忍び寄れる環境って…。19歳には厳しすぎる環境です。
さらに響子さんは「四谷が出た!」と叫ぶ五代君の声を聞きつけ、これまたノックなしでドアを開けて五代君の部屋にズカズカ入って四谷さんを注意していましたが…。いや響子さんもおかしいぞ…。五代君は基本的に部屋に鍵を掛けないようです。誰もがノックなしで入れる出入り自由の共有の部屋になっていませんか?
四当五落
五代君の部屋には『四当五落』の標語が貼ってありました。今では死後と言って良いと思いますが、当時受験戦争と呼ばれるほど大学入試は競争が激しく、『四時間睡眠だと合格、五時間睡眠だと不合格(落ちる)』と言う意味です。当時、塾や学校の先生の間で自然発生的に生まれた言葉だったとか。
四当五落とは本命の学校に受かるための必勝法のひとつで、4時間睡眠ならサクラ咲く・5時間睡眠なら不合格という意味があります。悠長に眠っている暇があるなら、その分を受験勉強にまわそう…というたとえです。
今考えると根拠もない無茶苦茶な話ですが、このようにめぞん一刻に貼ってあるポスター、読んでいる本、出てくる言葉なども時代を感じさせます。
一刻館は受験生が住むところではない
四谷さんや朱美さんが五代君の勉強の邪魔をするのはいつものことなのですが、今回は一応常識人の範疇に入る賢太郎も五代君の邪魔をしていました。このときの賢太郎は、一刻館の廊下でスケボーをするという暴挙に出てしまいます。スケボーの音がうるさい五代君は賢太郎に怒るのですが、不満なようで滑りたい滑りたいと連呼。
母親の一の瀬さんに賢太郎は「殴られた!」と泣きつくのですが、「敵は明日試験で気が立っているから我慢しな、明日倍になって返せば良い」と。今回は一の瀬さんは五代君の邪魔をあまりしませんでした。まあ、夜に五代君の部屋に宴会をしに来ますが…。一の瀬さんはある特定の状況下ではマトモで、響子さんや五代君を親身になって心配してくれたりします。
常識のなさではない方から順番に四谷さん、朱美さん、一の瀬さんですね。朱美さんはたまに同じ女性の響子さんを本気で心配したりするのですが、四谷さんは五代君にも響子さんにもこのようなことが一切なく、ぶっちぎりの非常識人です。まあ、1本筋が通っているとも言えますが…。
落ちる、滑る、また浪人
夜に五代君の部屋に集まって宴会をしようとする住人に、響子さんは「五代さんは受験シーズンなので、今後落ちる、滑る、また浪人などと言わないように」と注意を促すのですが、住人は聞こえないふりをして響子さんに大声を出させ、このワードを響子さん自らに連呼させるという策士ぶり。
五代君は明確に一刻館住人のオモチャであることは明言されているのですが、響子さんもオモチャにされているんですよね。
五代君はこんな環境じゃマトモに勉強できないので、今夜は友人ののアパートで勉強すると出て行こうとします。そこで四谷さんが、先ほど響子さんに言われた「滑る」と言うと五代君が廊下で滑り、「落ちる」と言うと階段から落ち…。じゃあ、と言うことで「空を飛べ」と言う四谷さん。「できるか!」と突っ込む五代君。初期のめぞん一刻はコメディと言うかもはやギャグ漫画に近いテイストがあります。
ポジティブな五代君
響子さんはあまりにも五代君をからかう住人にしびれを切らし、「いい加減にしないと本気で怒るわよ!」と怒るのですが、これを聞いた住人は「そんなに五代君のことで怒るのはおかしい」から始まり、これで誤解した五代君は、響子さんは自分のためを思って頑張ってくれているんだ、好意を持ってくれているんだとポジティブシンキング。一転して響子さんがいる一刻館に残ることになります。
五代君は終盤悲惨なことになって見ていられないのですが、この頃の五代君は白昼夢などもポジティブな妄想や誤解をしています。一方、響子さんは「疲れた…」と言っていましたが、そりゃあ疲れるよね。非常識人の住人たちを注意するも一向に聞かないどころか逆効果。五代君は他で勉強すると出て行こうとするも、自分が五代君を好きだと思って誤解し、それまでピリピリしていたことが嘘のようにキリッとして「管理人さん、僕頑張ります!」と。
受験生の五代君にとって劣悪な環境であるのは間違いないのですが、響子さんにとっても非常に疲れる環境です。結局、住人にとっては五代君というオモチャに加え、響子さんというオモチャが増えたわけですからね。
一刻館の全てが邪魔をする
住人に注意してなんとか五代君への邪魔を抑え、さあこれから勉強するぞというときに、今度は一刻館が停電してしまいます。響子さんと屋根裏に調べに行くのですが、明日試験なのに響子さんと2人きりなことに喜ぶ五代君。前回の屋根修理で胸を揉んでビンタされたのに、またしても肩を抱こうとしたり凝りません。
屋根裏では昔の住人の落書きを発見。戦前からあることが示唆されていましたが、これはアニオリです。ただ、一刻館の古さを考えると、戦前からあっても不思議ではないですね。
響子さんは迫る五代君に驚いて転んで頭を打って気絶するのですが、2時間ドラマならここで死んでいるはず。また、五代君は気絶している響子さんにキスしようとします。以前も書きましたがこの頃の五代君は結構ゲスいことしようとするんです。
響子さんは五代君にキスされそうになっていたことを「惣一郎さごめんなさい」と謝っていましたが、なんの事情も知らない響子さん以外は、頭を打って錯乱したと思っています。読者や視聴者もこの時点ではそうですよね。しかし、本当は響子さんの亡夫に謝っているのですが、ここもそれぞれ違うことを思って喋るめぞん一刻らしさの1つです。
響子さんはまだ惣一郎さんを亡くしてからこの時点で半年くらいです。そりゃあまだまだ惣一郎さんの思いでは鮮明に残っていますしこうなります。
結局、停電の原因はネズミがコードをかじったことと判明。修理して電気は点くようになったのですが、今度は一刻館の象徴である大時計の鐘が、町中の人が起きるレベルの音量で鳴り出し…。結局五代君は全く勉強も睡眠もできませんでした。
本来、五代君を邪魔するのは住人3人なのですが、今回は良かれと思ってやった響子さんも結果的に邪魔をしてしまい、常識人の賢太郎、そして一刻館の建物そのものが邪魔をし、もはや呪われているレベルでした。
綺麗に落ちた
最後は徹夜でボロボロの五代君が、試験に出掛ける際、住人に見送られる中、坂道を滑って綺麗に落ちました。また、その後アニオリですが、てるてる坊主が落ちて朱美さんが「あ、落ちた」と。滑る、落ちるが最後にまた出てきて落ちる面白い話でした。
ここでは響子さんの必殺技「頑張って下さいね!」も炸裂。
一刻館の舞台は東久留米
めぞんファンの間では常識ですが、一刻館の舞台は東京の東久留米市です。今後もちょくちょく出てくる駅は東久留米駅ですし、踏切や茶々丸のモデルのお店もあり、聖地巡礼のサイトではこれらが詳しくレポートされています。下記リンク先あたりが良くまとまっていてわかりやすく面白いです。
では何故東久留米かと言うと、作者の高橋留美子さんが連載当初住んでいたからです。そして、その時前のボロアパートが一刻館のモデルとのこと。そのボロアパートは大学生がたくさん住んでおり、剣道着で闊歩するなど奇妙な光景が見られたため、ここから着想を得たようです。
原作漫画では
一部オリジナル
総評
今回は一刻館全てが五代君の邪魔をする話でした。住人だけではなく、意思のない一刻館という建物すら邪魔をしてくるとは、もう受かるなってことなのでしょうか。しかし、逆に考えると、三流私大とは言え、この環境で受かる五代君って実は凄いのではと思ってしまいます。実際、自分に置き換えるとこの環境で勉強できるとは到底思えません。
もしこんな劣悪な環境ではなく、勉強に集中できる環境だったら一流大に合格するのでは…。と思う一方、三流私大でも留年(入院で出席日数が足りなくなりそうで…ですが)しそうになりますし、あんな簡単に一目惚れし、『響子さん!響子さん!』と色ボケする性格ではどこでも同じ運命だったかなと思ったり…。
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